【現地レポート】インディカー第10戦は新鋭コルトン・ハータがPP、決勝は絶好調のアレクサンダー・ロッシが制す
五大湖のひとつである、ミシガン湖の西側に位置するウィスコンシン州は、酪農や林業が盛んなところ。州都はマディソンだけれど、バイクのハーレーダビッドソンの故郷で、ビールの美味しさでも知られるミルウォーキーか、アメリカンフットボールの人気チームであるパッカーズの本拠地、グリーンベイのほうが有名な街といえるだろう。
ミルウォーキーの北60マイル、グリーンベイの南50マイルほどに1955年創業のロードアメリカはある。森の中にレイアウトされたサーキットは全長が4.014マイルとアメリカにしては長く、高速コースな上にアップダウンが激しく、ヨーロッパのサーキットを思い起こさせる。
ドライバーたちには挑戦のしがいがあるコースとして、ファンの間ではレーシングマシンのスピードを肌で感じられるものとして、人気が高いサーキットだ。。自分の車でコースサイドまで入り込み、キャンプやバーベキューをしながら観戦できるところもロードアメリカの大きな魅力。今年のレースにもとても多くの観客が集まり、レースデイには雨の予報もあったが、幸いにもレース終了まで雨はとうとう降らなかった。
高速コーナーが多く、距離も長いとなれば知識や経験が必要なはずだが、ポールポジション(PP)はルーキーのコルトン・ハータ(ハーディング・スタインブレナー・レーシング)が獲得した。最初のプラクティスでは目立たなかったが、走行を重ねてコースに慣れるとスピードアップし、インディカー・シリーズにおけるキャリア初PPを獲得。
第2戦のサーキット・オブ・ジ・アメリカスにおいて、デビュー3戦目にして初優勝した彼は、初PPをデビュー11戦目、18歳と359日で記録した。初優勝共々インディーカーの最年少記録樹立だ。しかも、今のインディカーで最速と評されているアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)を打ち負かしてのPP奪取だから価値がある。チームペンスキーで走る元チャンピオンたち、ウィル・パワーとジョセフ・ニューガーデンも予選3位、4位と完全に脱帽だった。
大人しく物静かな印象のコルトン・ハータの父親は、インディカーで通算2勝/7度のPPを獲得したブライアン・ハータである。そのDNAを受け継いだコルトン・ハータはマシンコントロール能力が突出しており、パワフルなインディカーを操ることを楽しんでいる。マシンを自分好みに作り上げるセッティング能力も高いものがある。
気温21度と涼しめのコンディション下で、レースはグリーンフラッグが振られた。そしてスタート直後のターン1〜2で、予選2位だったロッシがアウトサイドからハータをパス。トップに出るや後続を突き放して、優勝へと邁進した。
今回は予選2位だったが、PPスタートだった第4戦ロングビーチ同様、ロッシはピットストップ以外でトップを守り通してゴールまで突っ走った。不運に見舞われるケースが多く、これが今シーズンの2勝目。それでもポイントスタンディングは2番手に浮上。トップを行く3勝のニューガーデンとの差は7点しかない。逆転できれば、そのまま初タイトルへと突っ走れそうな速さが今のロッシには備わっている。
「3段階の予選で常に0.2秒遅かった。レースはその差を埋めて戦いたい」と語っていたロッシは、その通りにレベルアップしたマシンで圧勝。昨年、最終戦までチャンピオン争いをしながらランキング2位となった悔しさをバネに、シリーズタイトル獲得を目標に掲げる彼は、リスクマネジメントも冷静かつ的確に行っている。
その一方で、PPからのキャリア2勝目を期待されたハータは、序盤にしてチームに足を引っ張られた。ピットストップに時間がかかり過ぎて9番手に下がると、スピードと安定感でもロッシには敵わず、なかなか順位を挽回できず。
さらには最後のピットストップで柔らかいタイヤを選んだ作戦も失敗で、5位まで上げていた順位を8位まで下げてのゴールとなった。ウィナーとなったロッシとの差はどこにあったのか。それを埋めるためには何をすべきか。今度はハータが考え、実行する番だ。
2位はパワー、3位はニューガーデンだった。彼らは予選で見せつけられたロッシとの差をレースで埋められなかった。ハータの後退に助けられての表彰台と言えた。4位は予選5位だったグレアム・レイホール(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)が入った。
予選は12位、さらに決勝レースの1周目に他マシンに追突されて最後尾まで落ちたスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)だったが、奇跡的挽回を見せて5位でのフィニッシュを手に入れた。
佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は予選6位だったが、2周目のターン3でインに飛び込んで来たジェイムズ・ヒンチクリフ(アロー・シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)がスペースを残さなかったためにコースから弾き出された。ペナルティを課せられても不思議のないヒンチクリフのドライビングだった。
レース後に琢磨は、「もっと良いレースを戦いたかった」と悔しがっていた。昨年のロードアメリカではロッシに同じような接触をされた琢磨。今年はヒンチクリフがぶつかって来て、上位入賞のチャンスを潰された。「僕とライアン(・ハンター-レイ)のバトルは激しいけれどフェアだった。ニューガーデンとも接触はしたが、両車ともコース上に残り続けることのできるバトルだった」と怒りを抑えて話した。
13番手まで順位を下げ、その周辺ポジションから抜け出せない戦いを続いていた琢磨は、最後のピットストップでハードタイヤをチョイス。ソフトを選んだセバスチャン・ブルデイ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・ヴァッサー・サリヴァン)とハンター-レイというベテランとバトルし、彼らをパス。トップ10でのゴールを果たした。しかし、ポイントスタンディングは5番手から6番手に下がった。彼の前の5番手には今回2位フィニッシュしたパワーが2点差ながら入って来たためだ。
ロードアメリカを終えると2週末はレースがなく、クルーたちも一息ついてリフレッシュができる。その後には、第11戦トロント(ストリート)、第12戦アイオワ(ショートオーバル)、第13戦ミッドオハイオ(ロードコース)というキャラクターの異なるコースでの3連戦が待ち構えている。
(text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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