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NSX GT3の北米レースシーンにおける活躍と、BoPを考える

アメリカのスポーツカーを仕切る、IMSA(インターナショナル・モーター・スポーツ・アソシエーション)は紆余曲折こそあったものの、来年で創立50周年を迎える。彼らのウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップはプロトタイプとGTLM、GTDのクラスで構成され、耐久ありスプリントありのシリーズにはエントリーも多く、ファンの人気も上々だ。

アキュラNSX GT3が出場するGTDクラスの車両規定は、FIA-GT3マシンのそれとほぼ同じで、市販されている車種は多い。大体の数字を並べてみよう。

トップスピード:280km/h以上
エンジンパワー:およそ500馬力
ウェイト:およそ1215.6kg
車幅:200.66cm
燃料:E-10
ギヤボックス:6速
タイヤ:コンチネンタル(2019年からミシュラン)
トラクション・コントロール:許可
ABS:許可
出場可能マシン:

アキュラNSX GT3(#86 Michael Shank Racing with Curb-Agajanian Acura NSX)

BMW M6 GT3(#96 Turner Motorsport BMW M6 GT3)

アウディR8 LMS GT3(#44 Magnus Racing Audi R8 LMS GT3)

フェラーリ488 GT3(#51 Squadra Corse Garage Italia Ferrari 488 GT3)

ランボルギーニ・ウラカンGT3(#48 Paul Miller Racing Lamborghini Huracan GT3)

レクサスRC F GT3(#14 3GT Racing Lexus RCF GT3)

メルセデスAMG GT3(#33 Riley Motorsports Mercedes AMG GT3)

ポルシェ911 GT3 R(#58 Wright Motorsports Porsche 911 GT3 R)

そのほかニッサンGT-R GT3や、アストン・マーティン・ヴァンテージGT3もエントリーが可能だが、この2台は今年のIMSAシリーズにレギュラー出場していない。

エンジンもバラエティに富んでおり、アキュラ:3.5リッターV6ターボ/アストン・マーティン:6リッターV12/アウディ:5.2リッターV10/BMW:4.4リッターV8/フェラーリ:3.9リッターV8ターボ/ランボルギーニ:5.3リッターV10/レクサス:5.4リッターV8/メルセデス:6.2リッターV8/ニッサン:3.8リッターV6ターボ/ポルシェ:4リッター水平対向6気筒 …の各ユニットとなっている。

IMSAは性能調整の草分けで、1980〜’90年代に超絶な人気を誇った「キャメルGTシリーズ」時代から行っている。ファンにレースを楽しんでもらうには、マシン間の性能差を減らし、コース上で熱戦を繰り広げさせればいいという発想だ。初期は車重やエンジンの吸気量、空力などでマシン間の性能差を調整していた。

それが連綿と続いてきて、今やBoP(=バランス・オブ・パフォーマンス)は、世界中のスポーツカーやGTカー・レースで行われるようになっている。そして’90年代より遥かに進歩した今のBoPは、車重だけでなく、燃料タンク容量、エンジンの回転数域に応じたターボのブースト圧設定なども行う。

2018年のRolex 24hを走る#86 Michael Shank RacingのAcura NSX GT3

今年の開幕戦は、ロレックス・デイトナ24時間レース。デビュー2シーズン目を迎えるアキュラNSX GT3は、最低重量が1310kgと設定されていた。今年のライバルとなるランボルギーニは1300kgで、メルセデスは1375kg(ビッグ・エンジンなので)、そしてアウディは1320kg。

デイトナ用の燃料タンクのサイズは、アキュラが105リッター、ランボルギーニは92リッター、メルセデスは101リッター、アウディは91リッター。アキュラNSX GT3の燃料タンク容量が一番大きい。耐久レースでは、燃料タンク容量が大きい=長く走れることがメリットとなるが、大きくしてOKとされているのは、実はそれだけ燃費が悪いという意味だ。

直近のラグナセカ、つまり今年の最終戦ひとつ手前のレースでBoPをチェックすると、アキュラの重量は1320kgに増やされ、燃料タンクは107リッターと、こちらも2リッター増となっていた。メルセデスは1390kgまで重くされているものの、燃料タンクは101リッターで変わらず。アウディは車量は変わらずだが、燃料タンクは5リッターの増加。

GTDクラスのチャンピオン争いをリードする、#48 Paul Miller Racingのランボルギーニ・ウラカンGT3

それがランボルギーニの場合、チャンピオンシップをリードしていて、アキュラより多い2勝を挙げているのに重量は1300kgを保っていて、燃料タンクは95リッターへと3リッター増やされていた。NSXは1勝したら10kg重くされ、ランボルギーニはずっと変わらずの1300kgって不公平な印象を受けるが……。

タンク容量でもアキュラNSX GT3が2リッター増なのに対し、ランボルギーニは3リッター増。メルセデス-AMGは車重が元々重かったのに、今シーズン中さらに増やされた。BoPは本当に公平に変動させられているのか、理解するにはかなり難易度が高い。

さらにラグナセカでのプロトタイプ・クラスは、レース終盤にアキュラがニッサンより1周あたり1秒遅かったので、レース終了後、IMSAの技術部長に『BoPがフェアに設定されてないのでは?』と質問してみた。

逃げるニッサンをアキュラは追い切れなかった。性能差が大き過ぎると映っていた。もっと激しいバトルが見られると期待したのに。アキュラは参戦初年度だから、BoPが厳し目に設定されているのか?

すると技術部長からは、『様々なデータを収集しています。御指摘のデータも我々は深く検討しますよ』という答えが返ってきた。最終戦プチ・ル・マンで、アキュラ・プロトタイプの数字は緩められているだろうか? それとも、それは来年に持ち越しとなるのだろうか?

GTDクラスのアキュラNSX GT3はラグナセカで優勝したから、プチ・ル・マンに向けて数字を甘くしてもらえる可能性はほぼゼロ。逆に厳しくされる可能性さえあるのだが……。

#86 Michael Shank Racing with Curb-Agajanian Acura NSXをドライブするKatherine Legge(中央)、Alvaro Parente(右)、そしてチーム代表のMichael Shank(左)

NSX GT3の参戦2年目にして、中心的なドライバーであるキャサリン・レッグはシリーズチャンピオンの可能性を残したまま、10月13日に決勝レースが行われる最終戦ロードアトランタに挑む。はたして勝利の女神はNSX GT3に微笑むのだろうか?

(photo:LAT Images text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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