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【名車図鑑】コストを度外視して燃費性能を追求した初代インサイトは、アルミ製モノコックの「隠れた名スポーツカー」

2030年には「全世界で販売する4輪車のうち2/3を電動化する」ことを目標に掲げているホンダ。電動車とはハ イブリッド車、燃料電池自動車(FCV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)が含まれるが、もっとも実用化が進んでいるハイブリッド車の初代モデルがインサイトだ。

ホンダ初の量産市販ハイブリッド車として1999年にデビューしたインサイトは、当時世界最高となる35km/L(5MT車の10・15モード値)という優れた燃費性能を実現。その性能を実現するために、ボディの空力性能を徹底して磨き上げ、さらにボディのモノコックにはアルミ素材を使用するなど、コストを度外視した造り込みも話題となった。

初代インサイトは、NSXやS2000と同じく栃木製作所 高根沢工場にて生産が行われた

自動車のパワートレインとしては、ガソリンを燃料とするレシプロやロータリー、またはディーゼルエンジンが一般的であったなか、モーターを組み合わせることで燃費性能の向上を狙った「ハイブリッド」のトヨタ・プリウスが登場したのは、1997年12月のこと。

リッター28km(10.15モード値)という燃費を提げて登場したプリウスに対抗するため、ホンダが放ったハイブリッド車がインサイトだ。1997年の東京モーターショーにて発表されたコンセプトカー「J-VX」をルーツとし、プリウスから約2年後となる1999年11月に販売が開始された。

流れるようなルーフラインが初代インサイトの特徴。Cd値(空気抵抗係数)は量産車世界最高レベルとなる0.25を実現

ハイブリッド車においてもっとも注目される燃費性能は、なんとリッター35km(10.15モード値)を達成した初代インサイトは、その実現のためパワートレインはもちろんボディやホイールのデザインに至るまで、車両のほぼすべてが専用開発とされた「燃費スペシャル」な3ドアハッチバックだ。

潔く2シーターとした室内は、シート後方にバッテリーを中心としたハイブリッドシステムを搭載。その上方には実用十分なラゲッジスペースを備え、トランスミッションにはホンダマルチマチックS(CVT)のほかに5速MTも設定されるなど、乗車人数さえ割り切ってしまえば実用性能も、ホンダらしくスポーティな走りも楽しめるハイブリッド車として注目を集めた。

そんな初代インサイトの特徴は、なんといっても独創性のカタマリのようなボディである。形状としては3ドアハッチバックだが、なだらかなルーフラインと長いフロントノーズを持ち、空力性能向上のためリアタイヤを覆い隠すようにホイールスカートが設けられている。そのため前後トレッドはフロントの1435mmに対してリアは1325mmと、110mmも狭められた。

さらにボディは空力性能だけでなく、軽量化も徹底して追求。ホンダでは、1990年に登場したNSXでアルミ製モノコックを開発・採用した実績があるが、この初代インサイトでもアルミ製モノコックを採用。押し出し成形材とダイキャスト成形材を効率よく組み合わせたメイン骨格に、アルミプレス材と樹脂材のパネルを部位ごとに使い分けて組み合わせている。

この結果、1リッター・エンジンとモーター、バッテリーを搭載しながらも車両重量は820kg(5MT車)と、ほぼ軽自動車と同じ水準まで抑えられたうえ、前述のホイールスカートに象徴されるように空力性能を追求した結果、Cd値は0.25を達成した。

ECA型1リッター・ユニット。軽量化のため樹脂製インテークマニホールドやヘッドカバーを採用。オイルパンはなんとマグネシウム製だ

パワートレインについては、1リッター直列3気筒SOHCユニットをフロントに横置き搭載。この3気筒ユニットは他車からの流用ではなく、インサイト専用に開発されたエンジンで、燃焼効率とフリクション低減を追求したリーンバーン(希薄燃焼)仕様のVTEC機構を備えていた。

さらに薄型DCブラシレスモーターをトランスミッションとのあいだに配置し、パワーアシスト用として使用するIMA(インテグレーテッド・モーター・アシスト)システムを採用。エンジンは常に動力源として始動しており、エンジントルクが足りないときにモーターがアシストするという構成のためEVモードは存在しないが、当時の世界最高となる35km/リッターという優れた燃費性能を実現した。

運転席用&助手席用SRSエアバッグシステムは全車に標準装備

量産車における世界最高の燃費性能を実現する、として開発が進められた初代インサイト。いっぽうでドライビングの楽しさも失ってはいない、というのも(当時の)ホンダらしいところ。

コックピットでは、スイッチ類は基本的にダッシュボードの上部にレイアウトされ操作性を向上。シートはヘッドレストが一体式で、サイドサポートも大きく張り出したスポーツタイプが採用された。

トランスミッションはホンダマルチマチックS(CVT)に加えて5速MTも設定され、とくに5MT車は軽量コンパクトな車体と小気味良いシフトフィールにより、FFスポーツらしいハンドリング性能も楽しめた。

世界最高の燃費性能を実現するため、専用開発のアルミ製モノコックや先進のIMAシステムを搭載した初代インサイトだが、車両価格は210万円(5MT車)および218万円(ホンダマルチマチックS車)と、すべてが専用開発されたスペシャルモデルとしては超バーゲンプライスに抑えられた。

とはいえ当時はまだまだ燃費性能への評価は現代ほど高くなかったことや、2シーターの3ドアハッチバックという車両特性もあってか、初代インサイトの車両販売は苦戦を強いられた。なんといっても初代シビック タイプR(EK9型)が199万8000円で販売されていた時代なのだから、タイプRより高価なインサイトを購入しようという人が少なかったことはむしろ当然かもしれない。

その後はいくどかのマイナーチェンジを経て、2006年まで日本国内での販売を継続。フルモデルチェンジされた後継モデルが登場することなく、同年8月に販売を終了した。2009年には5ドアハッチバックとして「インサイト」の車名が復活、また2018年にも4ドアセダンとして復活を遂げているが、2022年をもって販売を終了している。

NSXの開発で培われたアルミ製モノコックの知見を活かし、ボディ各部の徹底した軽量化やエンジン性能の効率化追求といったホンダの持つスポーツカー造りのノウハウを存分に投入。さらにハイブリッド「IMAシステム」を搭載し、量産市販車における世界最高燃費の実現に邁進した初代インサイト。NSXやS2000の生産が行われた栃木製作所 高根沢工場で製造されたことも、この初代インサイトの持つスペシャル感を象徴する事実といえる。

(text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)