【Modulo X 10周年】走りも楽しめるミニバン、フリードModulo Xの比較試乗で見えてきた「実効空力」の進化とは
ホンダ車向け純正アクセサリーの企画・開発・販売を手がけるホンダアクセスが、車両全体の開発を手がけたコンプリートカー・シリーズが『Modulo X』だ。メーカー開発というメリットを最大限に活かし、静的にも動的にも高い質感を実現したModulo Xシリーズが誕生したのは、2013年1月のこと。初代N-BOXをベースとしたN-BOX Modulo Xが発売され、以降はN-ONE/FREED/STEP WGN/VEZEL/S660/FITの各Modulo Xが開発・発売された。2023年に誕生10周年を迎えたModulo Xシリーズ各車を、発売当時の記事で振り返る。
(ホンダスタイル98号に掲載)
コンパクトミニバンでも楽しめる「良い走り」
5ナンバーサイズのミニバン「フリード」をベースにするModulo Xがマイナーチェンジを受け、後期モデルへと生まれ変わった。もちろん、2019年10月に基準車であるフリードに変更が行われたことを受けての進化ではあるが、あくまでModulo Xのコンセプトを追求。はたして走りの質はどのように進化したか、従来モデルとの比較試乗により探ってみた。
まずは今回、登場したフリードModulo Xのラインナップを確認しておこう。ベース車両であるフリードのマイナーチェンジから約半年のインターバルを経て登場した新型Modulo Xは、従来どおり1.5リッターガソリン車と、1.5リッターアトキンソンエンジンにi-DCDを組み合わせたハイブリッド車という2モデルがラインナップされる。
今回の試乗車両は、従来型/新型ともにガソリンエンジンを搭載した「フリードModulo X」。パワーユニットは1.5リッター直噴DOHC i-VTECで、最高出力129PS/6600rpm、最大トルク15.6kg-m/4600rpmと従来型から変更はない。停止時からの加速ではハイブリッドほどの力強さは感じられないものの、ボディの軽さを活かした軽快な走りっぷりはガソリン車ならではの魅力といえる。
両モデルにおける外観上の違いはエンブレムの有無くらいで、エアロパーツ形状などはすべて同一。室内は3列シートが備わるが、2列目シートがキャプテンタイプとなる6人乗りのほか、3人掛けベンチタイプとなる7人乗りも用意される。駆動方式はFFのみだ。
そのほか大きく変更されたのはボディカラーだ。プレミアムクリスタルレッド・メタリック(有料色:5万5000円高)や、ミッドナイトブルービーム・メタリック(有料色:3万3000円高)といった鮮やかな色に加え、継続となるブラック系/ホワイト系についても、それぞれクリスタルブラック・パール/プラチナホワイト・パールへと変更となっており、4色すべてが新色となっている。
(※その後、プレミアムクリスタルレッド・メタリックはラインナップから落とされ、2023年6月現在は全3色となっている)
ブラッシュアップされた「実効空力」
ホンダアクセスが生み出すスポーツブランド『Modulo』は、そのコンセプトを表現する際に「実効空力」という言葉を掲げてきた。デザインだけを追求したエアロパーツではなく、街乗りであっても体感できる空力効果を兼ね備えたエアロパーツ、それが「実効空力」コンセプトである。
そんなModuloのフィロソフィを継承し、車両全体をトータルコンプリートカーとして仕立て上げた「Modulo X」シリーズも、当然ながら「実効空力」を掲げて車両開発が行われている。ファミリー層がメインユーザーとなるミニバンのフリードであっても、それは何ら変わらない。ミニバンからスポーツカーまで統一したコンセプトで、オーナーが満足できるものを提供しようという姿勢と意気込みには、物凄い熱量を感じる。
今回、マイナーチェンジを受けたフリードModulo Xでは、フロントバンパーに新たな空力処理を行ってきた。そして従来モデルと見比べてみると、表面だけでなく車体の裏側にも多くの秘密が隠されている。
言い換えれば、新鮮味や見た目を変化させるマイナーチェンジではなく、進化したかったのはその中身だ。もちろん、エクステリアの刷新による商品力アップも狙っているだろうが、それよりも注目すべきポイントは職人たちが進化させた本物の走り味、それが新たなフリードModulo Xには宿っている。
外観でもっとも大きく変化したのは、フロントエアロバンパーだろう。従来モデルのModulo Xでは、凹み方向で「X」を表現していたのに対し、新型ではより明確なキャラクターラインで表現されている。バンパー下部のガーニッシュ部はピアノブラック仕上げとされ、左右にフォグランプやデイライトを備える点は変わらない。
立体造形で”X”を浮かび上がらせることに成功したそのマスクは、もちろん車体上部の空気の流れがスムーズになるように処理が行われている。
興味深いのは、フロントエアロバンパー内に3つの実効空力デバイスがちりばめられていることだ。
ひとつ目は「エアロフィン」と呼ばれるもので、これは左右のバンパーサイドに設定されるもの。クルマを旋回姿勢へスムーズに移行させるとともに、ホイールハウスから発生する木流の流れを抑制することで、しなやかで上質な旋回を実現する。
ふたつ目は「エアロスロープ」と名付けられた、バンパー下部に設定されている箱型のスロープだ。車体裏側を覗くと中央の左右に箱型のエアロスロープが鎮座。下を覗き込まなければ見えない部分に、わざわざ取り付けているところが職人らしさ。これは車体下中央に速い空気の流れを生み、風のレールを走っているような安定感を生み出すのに一役買っている。
そして最後は、バンパー前面端の左右に設定されているフィンだ。まるで熊手を取り付けたかに思えるギザギザは、ホイールハウス内を通る空気の流れをスムーズにすることで内圧を低減。サスペンションの動きをより良くし、乗り心地の向上を狙っているという。
そのほかサイドやリアまわりにおける外観の変更点は多くないが、リアバンパー下部に備わる左右のロアースカートは形状が変更されている。サイドのロアースカートやルーフスポイラーは従来型Modulo Xから変更はない。
このほかリアロアースカートの形状も、若干ではあるが旧型と変化させている。直接のアナウンスは無かったが、これもまた実効空力を目指しての改良なのだろう。
ドアを開けて運転席へとすべり込むと、インパネのデザインには変更はない。ピアノブラックを効果的に用い、スポーティかつ高級ある装いとしている。
9インチプレミアムナビ装着車は、起動時にModulo X専用画面が表示される点も従来どおり。ただ表示されるModulo Xのフロントフェイス画像は、今回のマイナーチェンジによる新型のものへと刷新されている。
いっぽう大きく変わったのはシートまわりだ。3列シートのいずれもModulo X専用コンビシートを採用しているが、その一部素材に変更があった。従来モデルでは背もたれと座面のセンター部をファブリックとしていたが、これをスウェード調に変更することで乗員の身体が滑ることを抑制。シート形状も一部を見直すことで、サポート性を高めている。
このほかパワートレインやサスペンションといった領域には変更は発表されていない。はたして、約2年半ぶりに進化した新型フリードModulo Xは、一体どのような実効空力を得ることに成功したのだろうか? 今回は、新型/従来型とも1.5リッターのガソリンエンジンを搭載したModulo Xを比較試乗してみた。
ガソリン車はハイブリッド車に比べて約60kgも軽量になるため、シャシーの反応や、しなやかさな乗り心地といった部分はより明確に感じやすい。まずは従来型Modulo Xで街乗りと首都高速を含めたコースを走行し、その後に同じルートをを新型Modulo Xで走行することで、進化の度合いをじっくりと感じていこうと思う。
本当に空力だけによる効果なのか? 走るほどに驚きとワクワクが増してくる
新型に乗り換えて走りだすと、まず感じたのはステアリングフィールにドッシリとした安定感が生まれたことだった。特にオンセンターのシッカリとしたフィーリングは頼りがいのあるもので、安心感に繋がっている。
そして従来型以上に、真っ直ぐ走る。そんなの普通だろうと思うかもしれないが、それが出来ているようで出来ていないクルマは案外多い。従来のModulo Xも、世間一般の車両と比べ特筆すべき存在ではあったが、新型と比較すると微妙に修正操舵を繰り返していることが理解できる。新型は手を添えているだけで、荒れた路面でもしっかりと安定して走ってくれるから心地がいい。これはロングドライブで疲れが軽減されるに違いない。
また変更されているとは説明されていないが、脚まわりの印象も良くなっている。そう感じるのは路面への追従性だ。荒れた路面においてタイヤが吸い付いて行くかのように動き、車体はフラットにキープされているからだ。
Modulo X専用15インチホイールは従来型から変更なし。ガソリン車/ハイブリッド車ともにサイズ&銘柄は同一であるから、この走りの質感はやはり進化した「実効空力」ならではといえるだろう。一般道から高速まで、制限速度を守りながら走るシーンにおいてこれだけの違いが感じられるとは驚くばかりだ。
首都高速のコーナーが続くような区間でも、少しペースを上げたくらいでは一切不安さを感じさせることはない。フロントタイヤは常に路面を掴み続け、ステアリングインフォメーションをきちんとフィードバックしてくれる。
そんな状況で効果を発揮していたのは、表面素材が変更されたシートだった。表皮の一部を変更しただけではあるが、明らかに身体は滑りにくく、きちんとホールドされ続ける感覚がある。従来型はやや表面が滑りやすく、体制を整える機会が多かった。
シート形状も新型のほうが座面や腰骨周辺の張り出しが大きく、腰はS字カーブを描き続けて座ることを可能にしていたことが好感触だった。従来型はヘタリがあったのか、それとも新型が微細な変更をしていたのか、そこは定かではないが、新型が確実にドライバーをホールドし、疲れさせないように座らせてくれていたことだけは事実。このシート、本当に良くなったと思う。
街中において体感できる違いとしては、従来型に比べると新型Modulo Xでは明らかに突き上げ感が減少している。交差点を曲がる際も、ステアリング操作に対してノーズが安定して反応し、クルマとの一体感が増したような印象を受ける。
こうして新たなフリードModulo Xを見て行くと、「実効空力」の具現化も年々進化していることを感じさせてくれる。今回は同一車種における変化・進化だったので、特にそれが理解しやすかった。
かつてはベース車両があって、そこからの進化がModulo Xの真価であった。しかし今回はライバルが身内だったわけであり、だからこそModuloが取り組んでいる方向性を確実に見ることができた。車体下部の空気の流れにとにかく拘り、箱型のエアロスロープを使うことは、今後のModulo「実効空力」の方程式となりそうな気配だ。
今回はエアロパーツとシートという2つの柱により、今後も登場するであろうModulo Xシリーズの方向性が見えてきたように感じた。たったそれだけで?と思うかもしれない。しかし今回、新型と従来型をまったく同じシチュエーションで比較試乗すると明らかな違いが感じられ、それは脚まわりを変更したのかと感じさせるほどの走り味の進化だった。
5ナンバーサイズの「ちょうどいい」ミニバンであるフリードは、シートアレンジや実用性あるいは燃費という部分を重視して開発されたことは想像に難くない。しかしModulo Xになれば、ここまで本格的な走りを手にすることができることに、改めてクルマ作りの奥深さと、開発陣の拘りに感服してしまった。
FREED Modulo X Honda SENSING
SPECIFICATION
□全長×全幅×全高:4290×1695×1710mm□ホイールベース:2740mm□トレッド(前/後):1480/1485mm□最低地上高:0.135m□乗車定員:6名/7名□車両重量:1370kg(6名)/1380kg(7名)□エンジン型式:1.5リッター直噴DOHC i-VTEC□タンク容量:36リッター□最高出力:129PS/6600rpm□最大トルク:15.6kg-m/4600rpm□タイヤ(前&後):185/65R15 88S□サスペンション方式(前/後):マクファーソン式/車軸式□車両価格:300万5200円(6名)〜302万7200円(7名)
(photo:Satoshi KAMIMURA 神村 聖、text:Yohei HASHIMOTO 橋本洋平、編集:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)
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