【試乗記】帰ってきたスポーティコンパクト。新型フィットRSは、新世代2ペダルスポーツの道標となるか!?【GR3】
現代のベーシックカーであるホンダ・フィットが、現行モデルとして初のマイナーチェンジを受けた。最大のトピックは、スポーティグレード「RS」の復活である。現行型フィットは、ライフスタイルでジャンル分けされたのも特徴のひとつで、5タイプのキャラクターの異なる仕様を用意したことで選ぶ楽しみが広がった。しかし、RSが非設定となったことで、寂しさを感じた人も多かったはず。筆者自身も、2020年に現行フィットが登場した際はその事実に寂しさを覚えたひとりだけに、満を持して登場した「RS」に期待が膨らんだ。
新型フィットe:HEV RSのビジュアルを一言で表現すると、「やんちゃ坊主」だ。ワイドスタンスを強調する専用前後バンパー、スポーティなハニカムグリル、サイドシルガーニッシュ、大型されたリヤスポなどフルエアロ仕様となっている。ブラックのフロントロアグリルには、「RS」のバッチが誇らしげに輝く。
その雰囲気は、親しみやすいホンダスポーツであったシティターボⅡを彷彿とさせる。ちょっとベタな路線ではあるが、きっとRSファンの期待に応えたいとデザイナーや技術者たちが楽しんで作り上げたのではないだろうか。他モデルともハッキリと区別されており、スポーツハッチらしい雰囲気がしっかりと表現されているのは好印象だ。
足元にも抜かりはなく、専用デザインの16インチホイールに組み合わされるのは、最新スポーティカーへの採用例が多い、YOKOHAMAタイヤの「ブルーアースGT」である。
RSの内装デザインは基本的に他モデルと共通だが、グレーとブラックを取り入れたシックなカラーリングを採用。シートにはイエローのステッチが取り入れられ、、スポーティな印象を強めている。ステアリングホイールはRS専用の3本スポークタイプで、イエローステッチが施されている。ステアリング背後には、回生ブレーキの強さを調整する減速セレクターのパドルが備えられている。
もうひとつRS専用の走りのアイテムとして与えられているのが、「ドライブモードスイッチ」だ。他社では、センターコンソールに備わることが多いが、RSでは、メーターの左側にあるため、運転中にも切り替えがし易いようになっていることに拘りを感じる。
パワートレインのラインナップについては、2モーターハイブリッド「e:HEV」のほか、純ガソリンエンジンも用意される点は従来モデルから変更なし。ただし両者とも1.5リッターへと変更され、パワー&トルクの性能向上が図られている。スポーティグレードのRSは、e:HEVとガソリン車どちらにも設定されるが、まずはe:HEV RSからの登場。ガソリン車RSは後ほどお披露目となるようだ。
今回のe:HEV RSに搭載された2モーターハイブリッドは、全グレードで共通の仕様。走行用モーターの出力が従来の80kW(109ps)から90kW(123ps)まで高められた。走行モーターの出力向上に併せて、発電用モーターの出力も70kWから78kWに向上している。
排気量がアップされたエンジンは、72kWから78kW(106ps)まで出力が高められたほか、エンジン制御についてもステップアップシフト変速ポイントをより高い回転数まで引っ張ることで、加速とエンジンサウンドとの親和性を高めている。
さて復活したRSの走りは、どうなのだろうか。さっそくワインディングに連れ出してみた。身軽なコンパクトなボディと力強い電動モーターによる走りは、軽快の一言。しなやかな専用サスペンションは、ギャップに対する衝撃を抑えつつ、路面をしっかりと捉えてくれるので、安心してコントロールができる。
RSのために用意された秘密兵器となるのが、新アイテム「ドライブモード」に備わる「スポーツ」モードだ。このモードでは、RS専用サスペンションに最適なアクセル応答性にチューニングされているのがポイントだ。
標準となる「ノーマル」よりも、アクセル操作に対して、駆動力とレスポンスを高めるため、より俊敏さが増す。さらにエンジン回転数の高まりもより素早くなるため、ステップアップシフトとの組み合わせで、スポーツATのクルマを運転してくれるような感覚を味合わせてくれる。
エンジン回転数が高まるので、エキゾーストノートもノーマルよりも勇ましくなる。もちろん、ハイブリッドカーなので適度な音量となるが、ホンダサウンドらしい軽やかなメロディを奏でてくれるのが嬉しい。
いっぽう強いて言えば、ちょっと物足りないと感じる点もある。まずは回生ブレーキの利きが緩やかなこと。調整可能な減速セレクターも備わるが、ダウンヒルを楽しむには、ちょっと不足。アクセルからブレーキに踏みかえる際、もう少し強く回生ブレーキが効いてくれれば、より気持ちよいコーナリングが楽しめそうなだけに、進化を期待したい。
もうひとつは、スポーツモード時の演出が地味なことだ。せっかくのデジタルメーター装着車なので、ちょっと遊び心があっても良いだろう。しかし、総合的評価としては、期待以上のデキ。RSらしいスポーティハッチバックとしての楽しみがありながら、フィットならではの快適な乗り心地や実用性を備えるので、毎日楽しめる身近なスポーツカーだと思う。
そして、他モデルについても紹介しておこう。標準車の「BASIC」もエクステリアデザインが見直され、フロントマスクのコブが無くなり、よりキュートな顔立ちに。未来的な雰囲気は薄まったが、より親しみやすくなった。選ぶ愉しさも磨きがかけられたのも、マイチェンモデルの特徴だ。
「HOME」に設定される「プレミアムライトグレー」のインテリアは、実にお洒落。シート表皮もプライススムースとウルトラスエードのコンビシートとなり、触感に優れる。上質なコンパクトを目指す「LUXE」にも、ブラックレザーだけでなく、キルティング加工付のブラウンレザー内装を追加。ダウンサイザーのニーズにも応えられる小さな上級車感が強められた。
そしてRSと同様、個性派モデルのクロスオーバー「CROSSTAR」は、外観の印象はあまり変化がないものの、シートを撥水仕様とすることで、アウトドアでの機能性が高められている。
かつて初代シビックに設定されたRSは、シビック全体のイメージを大きく決定づけるほどインパクトのあるスポーティグレードだった。そのRSの名がフィットに与えられたのは、第二世代のGE型のこと。その後は同世代のハイブリッド車GP型、そして第三世代GK型にもRSは設定され、フィットが他社のコンパクトカーとは一味違う印象を強めた。
そしてついに第四世代に復活した「RS」の復活は、他のグレードの個性を際立たせることにも一役買ったように思える。それだけRSの存在は、フィットにとって重要なのだ。
(photo:Akio HIRANO 平野 陽、text:Yasuhiro OUTO 大音安弘)