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【S-Formula】富士の借りは富士で返す! 笹原右京選手(TEAM MUGEN)、感動のスーパーフォーミュラ初優勝!

2022 SUPER FORMULA 第6戦(富士スピードウェイ)
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#1 野尻智紀(TEAM MUGEN)
予選:3位
決勝:3位

#15 笹原右京(TEAM MUGEN)
予選:13位
決勝:1位
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2022年7月16-17日、全日本スーパーフォーミュラ選手権・第6戦が静岡県・富士スピードウェイにて開催された。シリーズチャンピオン争いを大きくリードしている1号車・野尻智紀選手(TEAM MUGEN)は3番手グリッドから抜群のスタートを決め、さらに早めのピットストップ作戦も功を奏して荒れたレースを戦いぬき、3位表彰台を獲得した。

いっぽう15号車をドライブする笹原右京選手(TEAM MUGEN)は、予選ではセッティングに苦しみ13番手からのスタートとなったが、タイヤ交換のタイミングもあって大きく順位を上げることに成功。トップに立ってからは後方との差をコントロールする完璧な走りを披露し、大逆転でスーパーフォーミュラ初優勝! 同じく富士スピードウェイで開催された開幕戦と第2戦では、いずれも悔しい内容となっていただけに、見事なリベンジ達成となった。

2022年の全日本スーパーフォーミュラ選手権は、4月9-10日に静岡県・富士スピードウェイで開幕。それから約3ヶ月ちょっとが経過し、第6戦の舞台は再び富士の裾野に戻ってきた。前日の予選では雨模様となったが、決勝レースでは一転して夏の到来を感じさせる汗ばむような陽気となった。

決勝日の朝に行われたフリー走行では、野尻智紀選手は5番手タイムを記録。いっぽう後方グリッドから巻き返しを図る笹原右京選手は19番手タイムとなったが、このときに前日の予選とは異なる好フィーリングが得られており、決勝レースにおける走りに繋がったという。

決勝レースは、定刻どおりに7月17日(日)の14時30分にフォーメーションラップがスタート。気温27度/路面温度は37度と、夏の到来を思わせるコンディションとなった。このフォーメーションラップ中に1台のライバルマシンがスピンを喫してしまい、もう1周が追加されたのち、21台のマシンがグリッドに並んで一斉にスタート。

40周に減算された決勝レースにおいて、スタートから抜群の反応を見せたのが3番手グリッドから挑んだ野尻智紀選手(TEMA MUGEN)だ。1コーナーまでに2番手スタートの坪井選手に並びかけると、立ち上がりでオーバーテイク。はやくも2番手に浮上する。

そして、野尻選手が駆け抜けたあとの1コーナーでは、中断グループにいきなり4台のマシンが絡むマルチクラッシュが発生。さらに2周目には、2コーナー立ち上がりで大きなクラッシュが発生してしまう。どちらもリタイアする車両が発生するほど大きなもので、2周目からはやくもセーフティカー(SC)が導入される。後方からの巻き返しを図る笹原選手は、いずれも無事にくぐりぬけ、さらなる上位進出を目指す。

セーフティカーは9周目終了時にコースを外れ、レースが再開される。野尻選手は2番手からトップの車両を追いかけ、笹原選手はライバル車両のピットインなどもあり、9位まで順位を上げていた。

全日本スーパーフォーミュラでは、決勝レース中に最低1度のピットイン(タイヤ交換)が義務付けられている。全40周で争われる今回のレースにおいて、その最短タイミングである「ピットウィンドウ」が開くのは10周と言われていた。その情報どおり、トップの車両が10周を終えたころからピット作業が慌ただしくなる。

毎戦、レース展開により様々なピットパターンを想定しているTEAM MUGENだが、今回は1号車の野尻選手と15号車の笹原選手で異なる作戦を採用していた。野尻選手はライバル車両に先んじてタイヤ交換に向かい、「見えない敵」とのタイムレースに挑むかたちとなった。いっぽうの笹原選手は、連続したアクシデントもあり上位進出を果たしていたなかで、スタート時のタイヤをできるだけ引っ張り、着実に走行順位を上げていく作戦を採用した。

やがてレースは折り返しを過ぎるが、ポールポジションからスタートしてトップを快走していた関口雄飛選手(TEAM IMPUL)はまだピット作業を遅らせていた。2位を走る野尻選手が先にタイヤ交換を行っていたため、トップの関口選手としては自身のピットインまでになるべくリードを築いておきたい状況だ。

その後も全力でプッシュし続けた関口選手は、25周終了時にピットイン。チームは素早いタイヤ交換作業を行い、ピットアウトした関口選手は野尻選手の前、トップの順位を保ったままレースに復帰することに成功する。しかしアウトラップで信じられないアクシデントが発生! なんと走行中に交換したばかりのリアタイヤがホイールごと外れてしまい、マシンは大きくスピンしてしまう。

このアクシデントによりイエローフラッグの掲示と、2度目のSCが発表される。そしてピットイン前のスティントをできるだけ長くとっていた笹原選手は、このSC導入の発表とほぼ同時となる、27周終了時にピットイン。このとき、コース上を周回しているトップ車両がSCに追いつく前からやや減速してしまったこともあり、タイヤ交換作業を行った笹原選手はなんとトップの位置でレースに復帰することとなった。

すべての車両のピット作業が終わった段階で、レースはSC先導のもと笹原選手が1位、野尻選手が3位というTEAM MUGENの1-3体制となる。その後、30周を終えた時点でSCがコースから外れ、レースは10周のスプリント形式で争われることとなった。

ついにトップを走る笹原選手は、SC後のリスタートも完璧に決め、安定した走りでトップを周回。とくにリスタート後の周回となる31周目は、決勝レース中のベストラップとなる1分24秒011を記録。後続を大きく引き離すことに成功する。

レース終盤、野尻智紀選手はフレッシュタイヤを履く宮田選手と激しい3位争いを展開

タイヤ交換を遅らせた面々が上位陣を形成するなか、3位の野尻選手はもっとも先にピット作業を終えており、タイヤの状況的にはもっとも苦しい状況。リスタート後は2位の坪井選手を追いかけることよりも、後方からプレッシャーをかけてくる4位宮田選手との表彰台を懸けた争いとなるが、ベテランらしく勝負所でオーバーテイクシステムを効果的に使用するなど落ち着いた走りを見せ、3位をキープする。

そしてトップの笹原選手は40周を走りきり、みごとにトップチェッカー! 開幕戦でポールポジションを獲得するなど、速さは見せながらもここまで噛み合わないレースが続いてしまっていた笹原選手だったが、待望の全日本スーパーフォーミュラ選手権を達成した。SCの導入タイミングなどレース展開を味方につけ、まさに「絶対に諦めない気持ち」が手繰り寄せた勝利といえるだろう。

笹原右京選手 レース後記者会見でのコメント

「本当に言葉がちょっと思い浮かびません。チームの皆さん、そして応援してくださってる皆さん、本当にありがとうございますと、とにかく感謝の言葉しかありません。今シーズンはギリギリのタイミングで参戦することが叶ったので、チームの皆さんにはシーズン前から大きな力をいただきました」

「それに応えようと、優勝または最低でも表彰台と思って頑張ってきたのですが、なかなか達成できずにプレッシャーも感じていましたし、『重いな』という日々でした。昨日の予選もうまくいかず、本当に苦しい中ではありましたが、チームの皆が手を差し伸べてくれて、ひとつひとつ細かなところから助けてくれたおかげです」

「僕も長年レースをやっていて、レースは水物というか、最後まで何が起こるかわからない。だからこそ絶対に諦めずに前を追い続け、ひとつでもチャンスをものにするっていうことを、チームとともにやってきました。今後も浮かれることなく地に足をつけ、野尻選手のように勝てるドライバーになっていきたいなと思っています」

野尻智紀選手 レース後記者会見でのコメント

「スタートで坪井選手をオーバーテイクできて、そこで流れを少しずつ自分の方に寄せられたかなと思いましたが、いろいろ難しいですね。セーフティカーが導入されているあいだは、今回はすごく積極的な戦略で行こうとチームを話し合い、ミニマムでのピットインを選択しました」

「そのあともレースは様々な展開があり、自分自身としても感情の揺れというか、落ち着いて走れてはいると思うんですけど、なかなか優勝までの壁が高いなっていう感じです。ただ完全に流れを引き寄せられなかったなかで、3位という位置をキープできたのは非常にいいと思うので、次に繋げていきたいなと思います」

「2度目のセーフティカー明けは、3位のポジションを後続の車両と争うかたちになりましたが、ニュータイヤでの一撃の部分をきっちり抑えられれば大丈夫かなと思っていました。そこを凌ぎ切ってからは、あとは自分のペースで走るっていうだけでした。順位をキープできたのは、それだけいいクルマをチームが作ってくれたということであり、次もしっかりと優勝を狙えるような準備をしていこうと思います」

「この2度目のセーフティカーへの対処というか、走行ペースがレース展開を左右する結果になりましたが、坪井選手も僕も、それぞれお互いとの位置関係を意識しすぎるあまり、レース全体を見られていなかったかなと今は思っています。あの瞬間、僕も坪井選手に対して『前に行ってほしい』というプレッシャーをかけ続ければ、坪井選手にも気づいてもらえたかもしれない。自分の反省点はもちろんありますし、そういう部分をひとつずつクリアしていくことがシリーズタイトルに繋がっていくと考えています。次戦の第7-8戦、もてぎの2連戦が正念場だと思ってるので、死ぬ気でがんばります」

(photo:TEAM MUGEN、text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)