【B16Aスワップ】卓越した技術とノウハウをCR-Xにフル投入、内外装をスキなく仕上げた「ビスポーク」カスタム
子供の頃に漠然と憧れていたクルマを、大人になって「一生の宝物」と決めて購入する20〜30代のオーナーが増えている。今回紹介する1991年式CR-Xは、まさにそんなオーナーが所有する1台。昔日の面影を残すノーマル然とした外装を好むいっぽう、内装は他にないフルカスタムという道を選択。果てはエンジンもショーカークオリティで仕上げ、世界に1台のCR-Xを完成してみせた。
(Honda Style 102号/2021年6月発売号に掲載)
夢への入口を実現した、驚きのフルカスタムインテリア
サイバー・スポーツの別名でも知られる二代目CR-X。初代のバラードスポーツCR-Xから踏襲するファストバック・デザインが特徴で、リアシートを備えた2+2シーターのコンパクトクーペとして人気を博したモデルだ。
二代目CR-Xがデビューしたのは1987年のこと。当初はD15B型1.5リッターSOHC搭載の1.5X(EF6型)と、DOHCのZC型を搭載するSi(EF7型)がラインナップされていた。
1989年には姉妹車であるシビックと同様に、B16A型1.6リッターDOHC VTECを搭載するSiR(EF8型)が追加設定。一気にスポーツイメージを高めることに成功した。
そんなCR-Xが活躍した、1980年代後半から’90年代前半にかけての時代を小中学生として過ごした子供たちも、今では20~30代のいいオトナに成長。あらためてCR-Xの斬新なデザインや手頃なサイズ感に、現代のクルマにはない魅力を感じるという声が、アチコチから聞こえるようになってきた。
大阪府摂津市にあるカスタムインテリアのプロショップ『9010(クオイオ)デザイン』がプロデュースしたCR-Xも、そんな30代後半のオーナーの要望に応える形でカスタムされた一台である。
アメリカのホットロッドの世界では、エンジンや外装と肩を並べて重要なパートとして認知されている内装のフルカスタム。その第一線で活躍する9010デザインの岡 篤志さんは、「このCR-Xに一生乗り続けていきたい」というオーナーさんの要望を汲み取り、内装だけに留まらないトータルプロデュースを担った。
岡さん自身が担当したインテリアは、キャメルカラーのレザーとスエード調素材を贅沢に使用。インパネやセンターコンソール、メーターフードのほか、ドアトリムやルーフライナー、カーペットもすべて張り替えて新車以上のクオリティと上質感を実現している。
レナウンのステアリングはもともとバックスキン仕様だが、ルーフライナーからドアパネルに至るまで、すべてレザーとスエード調素材で張り替え。細かなプラスチックパーツには内装と色味を合わせた植毛塗装を施し、統一感を出している。メーターはEF8型の純正スワップ。
ダッシュボード上部はスエード調、インパネやセンターコンソールはレザーと素材を分けながら、パネルごとに丁寧な張り込み作業を実施。レトロな雰囲気に合うように、真空管を備えるパナソニックのカーオーディオも備わる。シフトノブはダウンスター製を装着。
前後シートはCR-X純正をベースに表皮をレザーに張り替え、もともと縫い込まれている背もたれのロゴも新たに刺繍で再現された。シートベルトも同系色を使い、巻き替え作業を実施している。
キッカーのツイーターとスピーカーを装着するため、ピラーの埋め込み作業とドアパネルの加工も行い、すっきりとインストール。これぞフルカスタムと呼ぶにふさわしい匠の技が繰り広げられた。
「オーナーさんも仕上がりに満足してくれたのでよかったです。内装が出来上がると今度は外装が気になるということで、もともとのボディ色は黒だったんですが、ホンダ純正のシルバーをベースにパールを追加した特注色で塗装を行いました」
岡さんがそう話してくれたように、オーナーさんは車両制作が進むにつれカスタムへの意欲が増していき、ついにはエンジンルームにも手を加え、カーショーに出展するようなクオリティへ仕上げていこうと話が発展していったそうだ。
EK4からB16Aと5速MTを換装
メカニカルパートの作業を担当したのは、9010デザインと同じ摂津市に店舗を構えるプロショップ『タクティカルアート』だ。現車は1991年式のSiであるため、もともとのエンジンはZC型が搭載されていた。
そこでエンジンおよびミッションは、シビックSiR(EK4)に搭載されていたB16Aと5速MTに換装。HASPORT製エンジンマウントを使用し、エンジンのオーバーホールもきっちりと行ってから搭載されている。
特に見栄えのするパートとしては、いずれもアメリカのメーカーであるキンスラーの4連ITB(独立スロットルボディ)とPLMのエキゾーストマニホールドを装着。
アキュラRDX用インジェクターとAEMのレギュレーターを備えることで燃料の安定供給も実現させている。点火系は、S2000純正のダイレクトイグニッションで強化された。
排気系では、PLM(プライベートレーベルMFG)製のB型用4-1集合エキゾーストマニホールドを装着。かなり凝った取り回しを行ったタイプで、レーシーな見た目と吸排気性能の向上を両立させた。
逆に純正で備わっているものを極力目立たなくしたり、不要なものを排除したりする手法も採用。Rywireのマニュアルブレーキコンバージョンキットにより、マスターバックレスを実現。ウィルウッドのマスターシリンダーが備わるシンプルな取り回しとなっている。フロントローターはブレンボ製に交換される。
同じくRywireのミルスペックタックドエンジンハーネスをはじめ、Rywire×CSFのタックドラジエターをコアサポート内側の目立たない位置にマウントしたり、点火時期をデスビからAEMのEPM(エンジンポジションモジュール)に置き換えるなど、さまざまな工夫が凝らされている。
前述のHASPORT製マウントと、200個以上あるというダウンスターのハードウェアの色は、岡さんの発案ですべてカッパーで統一。ボディ同色で塗られたエンジンベイの中で、キラリと光る存在感を放っている。クラッチはEF型がワイヤー式、EK型が油圧式となるため、油圧で作動するための改良も施されている。
3ピース構造を採用するサクラム製ステンレスマフラーを装備。薄型サイレンサーを採用した2本出し仕様で、メインパイプ径はφ60.5mm。テールエンドのリングは削り出しで製作されている。
ホイールは無限のCF-48を3ピースに作り変え、リムサイズを14インチから15インチへとリバレル。Osakajdmの車高調でローダウンを行い、シャキッとした乗り味も獲得している。
このように徹底したカスタマイズを施した結果、2年前の2019 Wekfest JAPANに出展するや大きな話題となり、ベスト・オブ・ホンダのアワードを獲得。オーナーさんは、まさに一生モノのクルマと思い出を実現することができたのである。
(photo:Akio HIRANO 平野 陽、text:Hideo KOBAYASHI 小林秀雄)
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