【名車図鑑】今こそ思う「後継モデルがあったなら…」 ハイブリッドとスポーツの両立を目指したフィットHYBRID RS
2001年に初代モデルが発売されたホンダ・フィットは、燃料タンクをフロントシート下に配置する「センタータンクレイアウト」を採用したコンパクトカーである。
リアシートはワンタッチでダイブダウン収納が行え、たっぷりとした荷室が確保できるなど広大な車内空間を実現。高い実用性と経済性、さらに走りの良さを兼ね備え、現在は2020年に登場した4世代目モデルが発売中だ。
フィットに、省燃費性能を追求したハイブリッドモデルが追加されたのは2010年のこと。第2世代のGE型フィットに、1.3リッターSOHC i-VTECとモーターを組み合わせたIMAシステムを搭載するフィットHYBRID[GP1]が登場した。
そしてフィットHYBRIDから遅れること2年、2012年に追加されたのがフィットHYBRID RSである。
第2世代フィットのガソリンエンジン車には、スポーツグレードとして「RS」が設定されていたが、「HYBRID RS」は車名のとおり、そのハイブリッド版。パワートレインもフィットHYBRIDとは異なり、CR-Zやインサイト・エクスクルーシブに搭載される1.5リッターSOHC i-VTEC×モーターのIMAシステムを搭載していた。
フィットHYBRIDの1.3リッターIMAと比較すると、HYBRID RSはエンジン排気量が200ccアップしているため最高出力は114ps/6000rpm(1.3リッターから26ps増)、最大トルクは14.7kg-m/4800rpm(同じく2.4kg-m増)を発揮。モーター出力は14ps/8.0kg-mで、違いはない。
このパワーユニットは少々の仕様変更はあるものの、スペックはCR-Zとほぼ同じ。トランスミッションは「RS」の名にふさわしく、CVTのほか6速MTも用意されており、この6速MTはCR-Zとまったく同じギア比を採用している。また車重はCR-Zの1130kg(6速MT)に対し、フィットHYBRID RSは1140kg(6速MT)と、こちらもほぼ変わらない。
ハブ周りこそフィットの他グレードと同様に4穴タイプとなっていたが、ガソリン車のRSとともに前後ディスクブレーキを採用するなど、フィットHYBRID RSはハイブリッド車のスポーティクーペである『CR-Zの5ドア版』といってもいい内容となっていた。
当時のIMAシステムは、エンジンを主動力として用い、モーターはその補助的に使用される。そのためフィットHYBRID RSや、同型パワートレインを搭載するCR-Zは、ガソリン車と同じ感覚で楽しめるハイブリッドスポーツという点を特徴としていた。
しかしながら、フィットHYBRID RSは重いバッテリーを積むために軽快感はガソリン車のフィットRSに及ばず、それでいて燃費も1.3リッターガソリン車に届かない20.0km/L(6速MT車)に留まるなど、スポーティ性能および省燃費性能のどちらにおいても、やや中途半端な立ち位置となってしまった印象は否めなかった。
その後、ホンダはハイブリッドシステムの開発スピードを高め、後継モデルである3代目フィットでは1.5リッターDOHC i-DCDへと変更。そして4代目となる現行モデルでは、1.5リッターDOHCに2モーターを組み合わせたe:HEVへと進化させている。
しかしいずれも燃費性能を重視した設計となっており、ハイブリッド車にMTが設定されたのは、この2代目フィットに設定されたHYBRID RSと、同じパワートレインを搭載していたCR-Zが最後となっている。
ホンダは、2030年には日本国内で販売する普通車のすべてを電気自動車またはハイブリッド車とする、と発表している。もちろんMT車だけがスポーツモデルというわけではないけれど、2022年のハイブリッド車ラインナップを見ていると、今後にホンダ車のスポーツモデルは誕生するのだろうか?という不安な想いが心によぎる。
燃費性能とスポーツ性能を両立させることの価値は近年ますます高まっているだけに、約10年前に「ハイブリッド×スポーツ」というテーマへチャレンジしていたフィットHYBRID RSとCR-Zは、もっと評価されるべきだろう。
そして当時はモノ足りないと感じたドライビングフィールも、継続的にモデルチェンジが行われていれば、きっと目覚ましい進化を遂げていたはず。だからこそ後継モデルが存在しないという事実が、非常に残念に思えてくる。
フィットHYBRID RSやCR-Zもまた、登場が「早すぎた」モデルといえるかもしれない。
(text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)