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【名車図鑑】日本にワゴン文化を根付かせた、アメリカ生まれの帰国子女。流麗なスタイルで人気を集めたアコードワゴン

いまやSUV人気は世界的なムーブメントとなっているが、1980年代後半〜1990年代を通して、日本ではステーションワゴン・ブームともいうべき時代があった。ワゴン人気が高まった主な理由は、スキーやスノーボードといったアウトドアレジャーが世間に浸透したことや、サーフィンを中心としたアメリカン・カルチャーへの憧れがあった。

1994年に発売された2代目アコード・ワゴン 2.2VTL

とくに後者では、ステーションワゴンをベースモデルにしたカスタムが大流行。アルミの削り出し(ビレット)パーツや、それをイメージしたメッキパーツ、ディッシュタイプのホイールなどが人気を集め、ボディまわりではシンプルなフォルムを演出するエアロパーツなどが数多く販売された。

脚まわりでは「ローダウン」という言葉が多く用いられ、エアロパーツは控えめ、ラゲッジスペースには大出力のウーファーを中心としたオーディオを組む。ステーションワゴンを中心に大流行した、そんなアメリカン・カスタムカルチャーを牽引する存在となったのが、2代目アコードワゴンである。

1982年、2代目アコードはオハイオ州メアリズビル工場での生産を開始。生産1号車の側でスピーチするのは、当時のホンダ・オブ・アメリカ・マニュファクチャリング(HAM)社長、中川和夫氏

1976年に初代モデルが誕生したアコードは、当初から日本国内だけでなく世界各地で販売される戦略車として販売されたが、なかでも北米市場では大きな人気を呼び、1986年には日本車として初めて、現地(オハイオ州メアリズビル工場)での生産が行われた。

モデルチェンジを重ねるたびに北米市場におけるアコードの存在感は強くなっていき、3代目アコードではアメリカホンダが開発したアコード・クーペが新設定。前述のメアリズビル工場で生産が行われ、日本国内へも輸入され販売が行われた。

4代目アコードに初設定されたワゴンモデル。アコード・ワゴンとしての初代モデルは1991年に発売された

そして続く4代目アコードでは、クーペに加えてステーションワゴンが新登場。この「初代アコード・ワゴン」も、クーペと同様にアメリカホンダが開発を主導、メアリズビル工場にて生産されたモデルだ。そしてクーペとワゴンの両車とも、生産拠点のあるアメリカから日本へ輸入するかたちで国内市場へも販売が行われた。

アメリカホンダで企画・開発、さらに生産が行われた「アメリカ車」であるだけに、初代アコード・ワゴンは日本国内で盛り上がりつつあったアメリカン・カルチャー・ブームとの相性は抜群。若い世代を中心に高い人気を集めたアコードは、日本国内でもヒットモデルとなった。

2代目アコードワゴンもアメリカで生産される「輸入車」だが、日本仕様は全車右ハンドル。Cピラー後部にはHAMのエンブレムが備わる

やがて日本国内生産のアコード・セダンが、1993年9月にフルモデルチェンジを受けて5代目へと進化すると、約5ヶ月ほど遅れた’94年2月に、アコード・ワゴンとクーペもフルモデルチェンジ。アコードとしては通算5代目、アコード・ワゴンとしては2代目モデルが登場した。

外観デザインは、フロントまわりはセダンと同様のシャープな顔つきが特徴で、ボリュームたっぷりのラゲッジスペースを組み合わせる。真横から見るとガラスエリアの面積が広く確保されており、ドアのショルダーラインは低く、スポーティで洗練された雰囲気を演出していた。

小物の収納に役立つアンダーフロアボックスとリアサイドボックス、さらにトノカバーやタイダウンフックが標準装備された

そのラゲッジスペースの容量は739リッターを誇り、段差のないフラットデッキやバンパーのすぐ上から開くテールゲートなど、実用性も確保。フロア面は全面カーペット仕上げとされ、荷物にキズがつくのを防ぐとともに、車内に高級感を与えていた。

またリアシートはヘッドレスト一体型で、背もたれ部分が6:4の分割可倒式とされるなど、ラゲッジスペースの使い勝手も優れていた。

2代目アコード・ワゴンには、新冷媒HFC134aを採用したフルオートエアコンが全車に標準装備された

運転席まわりのデザインは、アコード・セダンと共通。トランスミッションは全車とも4速ATで、プロスマテック(タイプⅡ)と呼ばれるAT変速制御システムを採用。より人間の感性に近いシフト感覚を実現した。上級グレードである2.2VTLには、運転席SRSエアバッグシステムのほか、4輪ABSが標準装備された。

登場初期に搭載されていたエンジンは、2.2リッターSOHC VTECのF22B型の1種類で、最高出力は145PS。その後、’96年9月に行われたマイナーチェンジで、DOHC VTECを搭載したSiRも追加設定された。このDOHC VTECエンジンはハイオク仕様のハイパワー版で、最高出力190PSを発生した。駆動方式はFFのみ。

脚まわりはセダンと同様に、4輪ダブルウイッシュボーン・サスペンションを採用。しなやかな乗り心地と優れた操縦安定性を高次元で両立しており、これも人気の理由となった。

そして「アメリカ生まれ」を強く感じさせる装備は、上級グレードに標準装備されたサンルーフだ。ガラス部分はスモークド仕様とされ、開口部は左右に大きくとられているため開放感もたっぷり。またルーフレールは全車に標準装備となっていた。

後期型で追加設定されたSiR。DOHC VTECエンジンを搭載したスポーティグレードで、専用デザインの15インチアルミホイールを装備

1996年9月に、アコード・ワゴンはマイナーチェンジ。全グレードに両席SRSエアバッグが標準装備されたほか、DOHC VTECエンジンを搭載したスポーティグレード「SiR」が追加設定された。SiRのみヘッドライトのサブリフレクターがブラック塗装されて顔つきの印象が異なるほか、タイヤサイズは205/55R15へとアップ。またフロントブレーキローターも大径化されている。

そのほかのモデルでは、後期型における外観上の変更は少なく、全グレードでフロントグリルがボディ同色化されたのみ。グレード展開はVi、ViX、そしてSiRの3モデルで、SiRとViXではリアドア、リアクォーター、テールゲートにプライバシーガラスが採用された。

SiRではダークグレーモノトーン調インパネを採用。そのほかスポーティグレードらしく、革巻きステアリングホイールを標準装備

1990年代のステーションワゴン・ブームを牽引する存在となった2代目アコード・ワゴンだが、その理由としてはスタイリッシュなデザインと優れた実用性、そしてスポーティグレードSiRの設定などが挙げられる。しかし最大のポイントは、各グレードごと外観の違いが少なく、それでいて全グレードとも身近な価格設定がなされていた点だろう。

2代目アコード・ワゴンは初期モデルの価格帯が224万円〜273万6000円。1996年以降の後期型では装備が充実しつつもやや値下げされ、219万8000円~239万8000円だった。

後期型で追加設定されたスポーティグレード・SiRでも、車両価格は269万8000円(いずれも東京地区価格/税別)に抑えられており、輸入車とは思えないプライスタグも魅力だった。そして1年後の1997年9月、フルモデルチェンジを受け3代目アコード・ワゴンへと進化する。

(text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)