【動画】市販レーシングカーの「シビック・タイプR TC」が販売開始!
『世界最速FF』を旗印に掲げて開発された、現行シビック・タイプR(FK8)。先代FK2型からキャリーオーバーとなるK20Cターボ・エンジンは熟成が進んで最高出力320PSに達し、新たに20インチ・タイヤを組み合わせたことでサーキットのラップタイムも飛躍的に向上した。
そんなシビック・タイプR(FK8)は、数々のレースに参戦している。全英ツーリングカー選手権(BTCC)や世界ツーリングカー・カップ(WTCR)、北米ピレリ・ワールド・チャレンジ(PWC)、そして日本のスーパー耐久シリーズなどで数々の勝利を挙げているが、2020年はさらにレースシーンでの活躍ぶりを見られそうだ。
というのも、2020年シーズンに向けて新しいレーシングカー『シビック・タイプR TC(Honda Civic Type R TC)』が発表されたため。
このシビック・タイプR TCは市販を前提にしたレース専用車両で、アメリカ・カリフォルニア州ソノマ・レースウェイで撮影された動画が公開されている。まずはその映像をご覧いただこう。
シビック・タイプR TCは、ホンダのアメリカにおけるモータースポーツ活動を統括しているホンダ・パフォーマンス・デベロップメント(HPD)が開発を手がけたレーシングカーだ。HPDはHONDAブランドでのインディカー・シリーズへのエンジン供給のほか、IMSAシリーズに参戦するACURA ARX-05の開発を担当しており、近年ではNSX GT3の開発もHPDが行うなど、市販レーシングカーにも関わりが深い。
NSX GT3の製造はイタリアのJASモータースポーツが行っているが、このシビックタイプR TCは、開発から製造、そしてパーツ供給やサポートに至るまでをHPDが一手に担うという。
特徴的なのは、シビック・タイプRの市販車両をベースにレーシングカー化したのではなく、ホワイトボディから生産される純粋なレーシングカーだという点だ。
現行シビック・タイプRの生産拠点であるイギリス・スウィンドン工場から、ホワイトボディがアメリカに輸入され、アメリカ国内で生産されたK20Cユニットを搭載。そしてテキサス州オースティンのグラディエントレーシングのファクトリーで各種ボディパーツなどが組み付けられる。
エンジンの最高出力は購入者が参戦するレースのレギュレーションに応じて変更され、270~330hpを発生するという。市販モデルの最高出力が320hpだから、もっともパワーのある仕様であっても、市販モデルから大きな変更ではないといえる。
それでは、まず外観から見ていこう。基本的に市販モデルの面影を強く感じさせるが、フロントまわりではグリル周辺がメッシュタイプとなっているほか、フォグランプが外されエアインテークとなっている。日本国内でも、市販モデルは冷却系に弱点があると言われているだけに、その対策と見て間違いないだろう。
フロントボンネットもエアアウトレットを備えたカーボン製フードに交換されており、これはジェイズレーシング製とアナウンスされている。ヘッドライトやサイドミラーについては変更がなさそうだ。ラジエターおよびオイルクーラーはCSF製、エンジン本体には変更はないがHPD製のダウンパイプとエキゾーストを採用している。
ブレーキキャリパーは純正ブレンボのように見えるが、ブレーキローターはブレンボ製2ピースタイプに変更。さらに走行風を導くインレットダクトも採用した。駆動系ではHPDとクスコが共同開発したLSDが装着され、6速MTは3速と4速ギアの強度がアップされている。
リアまわりの変更点は多くないが、純正リアスポイラーは取り外され、角度調整式のGTウイングを装着。ウイング本体および台座はカーボン製だ。走行シーンに合わせて15段階の角度変更が可能となっている。
インテリアも市販車両の面影を強く残すもの。助手席や後席は取り外されているものの、ダッシュパネルは純正のものがそのまま使用される。車体内部にはボディ溶接のロールケージが装着され、OMP製フルバケットやOMP製ステアリングホイールが用意される。トランスミッションは市販車同様の6速Hパターンだ。
フルバケットシートは前後5段階の調整が可能。シフターはショートストロークタイプとなる。その手前に備わるのは消化システムのスイッチだろうか。
OMP製スポーツステアリング。市販レーシングカーとはいえ市販車両のイメージが色濃く、ステアリングにはほとんどスイッチが備わらない。ウインカーやワイパーレバーは市販車のものをそのまま流用する。
メーターはMOTEC製データロガーに各種情報が表示される。ギアポジションや回転計のほか、排気温度やサスペンションの減衰力などもドライバーは把握することができる。
購入後、即レース参戦が可能そうなシビック・タイプR TC。残念ながらというか当然というか、購入できるのはレースライセンスを持つユーザーに限られる。現在のところ、参戦できるカテゴリーはSRO(ステファン・ラテル・オーガニゼーション)のツーリングカー選手権や、SCCA(スポーツ・カー・クラブ・オブ・アメリカ)のレースとのこと。
さらにユーザーが希望すれば、HPDはサーキットでのファクトリーエンジニアリングとパーツ供給など、車両販売だけでなくすべてのレーシングカスタマーサポートを行う用意があるとのこと。またレース開催時以外には、顧客とHPDのエンジニアが直接コミュニケーションを図ることもできる、専用のテクニカルサポートラインも開設予定だそう。
もちろんこれらのサポートはアメリカ国内でレース活動を前提としているが、日本国内でもレギュレーション上はスーパー耐久のST-2クラスに参戦することができる(はず)。シビック・タイプR TCの車両価格は8万9900ドル(約985万円)となっているが、はたして2020年シーズンに購入して参戦するチームは現れるだろうか。期待して待ちたい。
(text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)