【eスポ】「Honda Racing eMS」仕掛け人はS660の元開発ドライバー! HRCが考えるモータースポーツの未来像とは
2024年12月1日、東京・港区のホンダウエルカムプラザ青山にて『Honda Racing eMS/GT Grand Final 2024』が開催された。このホンダ公式eモータースポーツイベントは、2023年に第一回が開催され、今回が第二回大会。大会の規模はさらに拡大し、予選の参加者は全世界から23万5000人を数えたという。
そんな「Honda Racing eMS 2024」を主催しているのが、ホンダのモータースポーツ活動を担うHRC(ホンダ レーシング)だ。HRCといえば、現在は2輪4輪の様々なレースカテゴリーに参戦するモータースポーツのプロ集団。いわば「リアル」なモータースポーツの象徴でもあるHRCが、なぜ「バーチャル」のeモータースポーツを推し進めるのか?
『Honda Racing eMS/GT Grand Final 2024』の仕掛け人でもある、HRCの岡 義友さんに話を伺った。
「モータースポーツの楽しさを知るきっかけになれれば」
ところで熱烈なホンダファン、あるいはS660オーナーであれば、「岡 義友」というお名前に聞き覚えのあるという人もいるかもしれない。現在はHRCで参加型モータースポーツ プロジェクトリーダーを務める岡さんは、かつてS660のシャシー開発に携わり、完成車性能担当としてテストドライバーを務めた経歴を持っている。その岡さんが、いったいなぜ「バーチャル」なeモータースポーツの推進役となったのだろうか。
「ホンダで多くの車両開発に関わってきたあと、2022年10月にHRCへ異動しました。もともとモータースポーツを見るのは大好きだったので嬉しかったですね。いちファンとしてモータースポーツを見ていたときから、”やる”ことのハードルの高さを感じていたので、そこを変えていけたらなとは思いました」
HRCといえば、2輪だけでなく4輪のモータースポーツ活動を担う生粋のレース屋だ。いわば究極の「リアル派」で、eモータースポーツとは対極に位置するといっていい。事実、岡さんは参加型モータースポーツ プロジェクトリーダーとして、スーパー耐久 ST-Qクラスに参戦しているTeam HRCの監督も務めている。
「ドライビングの楽しさ、モータリゼーションの素晴らしさ、なによりチームワークの尊さを感じるうえで、モータースポーツはとっても有意義だと思うんです。いっぽう参加のハードルが高いのは、まず費用面ですよね。それとサーキットやカート場をはじめ、競技場への物理的な距離、移動時間。でもeモータースポーツであれば、これらがだいぶ緩和されます」
岡さんによると、HRCには『持続可能なモータースポーツの実現』、『四輪事業への貢献』、『ホンダブランドの拡大』、『モータースポーツのすそ野の拡大』という4つの理念があるという。そして、これらはeモータースポーツが秘める可能性と合致する部分が多い。そこで「リアルなモータースポーツの素晴らしさを知るHRCだからこそ、eモータースポーツの分野に関わっていくべき」と提案し、現在はリアルとバーチャルの両モータースポーツに業務として関っている。
「HRCがeモータースポーツを推進していくにあたって『グランツーリスモ7』を選択したのは、やはり楽しまれているユーザーが多いからです。そして世界大会をはじめ、競技としてのフォーマットやルールが定着していることも重要でした」
今回、ホンダウエルカムプラザ青山で開催された『Honda Racing eMS/GT Grand Final 2024』は、モニターやシート、ハンドルコントローラーなど、グランツーリスモ世界大会のルールに倣って用意された。17歳以下の「U17」そして年齢不問の「チャレンジ」というふたつのクラスが設定されるが、今年は「チャレンジ」クラスに海外からも参加可能となり、グランツーリスモ世界大会に出場するトップ選手たちも名を連ねた。
「eモータースポーツの大会を通して、モータースポーツの楽しさを多くの人に知ってもらいたい。そのために予選は誰でも参加しやすいようにオンラインで行い、決勝戦は気軽に観戦に行きやすい場所をオフライン会場として開催しようと考えました。選手だけでなくホンダウエルカムプラザ青山にお越しいただいた観客の皆様も、展示されているレース車両を見て、リアルなモータースポーツに興味を持ってくれればいいなと思っています」
その言葉どおり、『Honda Racing eMS/GT Grand Final 2024』が開催されたホンダウエルカムプラザ青山には今年のスーパー耐久シリーズに参戦したシビック タイプR CNF-Rや、往年のF1マシン・RA271が展示されていた。
さらに注目は、実際のフォーミュラマシンを使用したオリジナルシミュレータが展示されていたことだ。
「Honda eMS SIM-01」と名付けられた筐体は、フロントカウルの上にモニターが取り付けられ、実際にコックピットに座ってみることも可能。じつはこの車体、もともとホンダの主催するレーシングスクール「SRS-F(現在の名称はHRS)」で使用されていた車両をベースに製作したものだという。
2023年、それまで約20年にわたって使用されていたスクール車両が役目を終え、新世代車両へと入れ替わる際、廃棄されるはずだった車両を「モッタイナイ」と譲り受け、シミュレータへと作り替えたのだそう。会場では実際に乗り込むこともでき、”座る”というより”寝そべる”に近い、フォーミュラマシンならではのポジションに驚く声が多く聞かれていた。
いまや世界中の自動車メーカーがeモータースポーツ活動に取り組んでいるなか、HRCならではの特色として、バーチャルのeモータースポーツからリアルのHRS(ホンダレーシングスクール)へ繋がるパスウェイなども今後は期待できるのでは…という期待(妄想?)も膨らんでくる。
「将来的にどうなるかはわかりませんが、現時点ではまだ先を考えるという段階にはありません。できるだけ多くの人にモータースポーツの楽しさを知ってもらう、その場を提供したいと思っています。レーシングドライバーに限定するわけではなく、レースメカニックやエンジニアであったり、チーム運営であったり、サスペンションやタイヤの開発者など、モータースポーツやクルマづくりに関わる職業を志すキッカケにもなれるんじゃないか。eモータースポーツには、様々な可能性があると信じています」
(text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)