【VTEC換装】サーキットを攻めるために製作された、B18C換装のワンダーシビック!
エンジン換装術でサーキット仕様へと生まれ変わったワンダーシビック。1980年代生産の旧車でありながら、現行車にも負けない戦闘力を手に入れた。大阪府羽曳野市の専門店『ファイブマート』の経験とノウハウが、歴代モデルの中でも特に人気の高いホンダ・ヒストリクスを、さらなるステージへと導く。
(Honda Style 104号/2021年12月発売号に掲載)
サーキット仕様に生まれ変わった驚速ワンダー!
「ワンダー」の愛称で知られる3代目シビックが登場したのは、1983年。まもなく40周年を迎える旧車だが、今なお多くのホンダファンから「あのカタチが好き」と名指しされる名車である。
大阪環状カルチャーを現代に伝える大阪府羽曳野市の『ファイブマート』では、これまでも多くのワンダーシビックを製作してきた。今回取材した車両は、ファイブマートの代表を務める古川一弘さんが個人的に所有し、サーキット用としてチューニングを行った一台だ。
「6年前に筑波サーキットのタイムアタックでエンジンブローしまして、それ以来ずっとお店の片隅に放置してあったんです。2021年10月にセントラルサーキットで開催されたサーキットフェスタに出場するために、久しぶりに復活させました」
製作の経緯をこのように教えてくれた古川さん。ベースとなる車体は’85年式の前期モデルで、もともとZC型を搭載するスポーツグレード「Si」だった。しかし、さらなる戦闘力を身につけるため、エンジンはDC2型インテグラ・タイプRに搭載されていたB18C・1.8リッター直列4気筒DOHC VTECを換装している。
B18C換装にあたってはHASPORT製のエンジンマウントを使用。ワンタッチカプラーを備えるカスタムエンジンハーネスはライワイヤー製を使用する。不要な配線・配管類を撤去したことですっきりとしたエンジンルームに仕上げられた。エキマニは戸田レーシング製を装着。
サスペンションはファイブマートのオリジナル商品である「OSAKA JDM」のコイルオーバー式車高調整式サスを使用し、古川さん自身が蓄積した経験とノウハウを生かしたセッティングに調整。前後ともに調整式のアーム類やリアシムを使うことでキャンバー角をつけ、ローダウンとジオメトリーの補正を両立させている。
いっぽう外観はベース車両のフォルムを活かしつつ、フロントのリップスポイラーとボンネットのNACAダクト加工などで、スポーティなルックスに変身。フロントボディはスポット溶接の追加で補強が行われ、ハンドリングに好影響をもたらしている。
外装にはオリジナルのワイドフェンダーや、通称「悪ッ羽」と呼ばれるリアウイング、カーボン製のドアミラーなどを装着。センター一本出しレイアウトのワンオフエキゾーストも製作し、B18C換装ならではの高回転・高出力のエンジン性能を引き出している。
リアには「Si」グレードと後期型の特徴であるレッドガーニッシュを装着。バックランプは本来クリアレンズとなるが、ガーニッシュと揃えたレッドとすることでシンプルなカッコ良さを追求している。
モダンとヒストリックが融合したインテリア
ステアリングはグリップロイヤルのGT350、クイックリリースはCOURSEモータースポーツ製を採用。メーターにはAIMのカラーダッシュロガーを使用している。サーキット用だけに、無駄なものを排除したスパルタンな操作環境が整う。
室内にはブリッド製フルバケットシートを一脚のみ装着し、カーペットなどは取り除いて軽量化。現在となってはかなり貴重な、1980年代当時モノの無限製ロールケージが装着される。
もちろんフロアマットもないため、ペダル操作時の滑りを防ぐためのメタル製プレートが装備されている。助手席側の足元には、無限製コンピュータが装着される。
室内に張り巡らされたロールケージはダッシュ貫通タイプで、フロントからリアまでがっちりとボディ剛性を高め、万が一の横転時などには乗員の保護効果を発揮する。
エンジンの換装と同時に、クラッチ操作が油圧式となるEG型やEK型のトランスミッションに換装しているのも、ファイブマートが得意とするワザのひとつ。
トランスミッション自体も油圧式の5速クロスミッションに変更したことで、サーキットに適したギヤレシオとコーナー立ち上がり時の加速性能を手に入れている。
キノクニの燃料タンクや、ボッシュとファセットを組み合わせたフューエルポンプを使用した燃料ラインは、リアスペースに設置される。
オデッセイのドライバッテリーを、専用ステーを使って車内側に搭載。意外と重量のある純正バッテリーをドライバッテリーに置き換えることにより、軽量化と重量配分の最適化を図っている。
独自のサスペンションセッティングでタイムも更新
ホイールは15インチのRAYS製ヴォルクレーシングTE37で、サイズはフロントが15×8.0J +25、リアが15×7.0J +35。コースや車両の特性に合わせたハイグリップタイヤを臨機応変に使い分け、最適なトラクションを得られるようにした。
ブレーキはフロントがNSXの純正キャリパーと純正ローターを流用し、リアはインテグラのディスクブレーキに換装。マスターバッグも純正流用で容量を拡大しており、旧車とは思えないストッピングパワーとブレーキタッチを実現させている。
こうして完成したB18C搭載のワンダーシビック。前述のサーキットフェスタ前日に行われた練習走行がシェイクダウンとなり、いわば「ぶっつけ本番」ながら、最速1分27秒2をマーク!
しかし当日、搭載していた4連スロットル+ハイカム仕様のエンジンがブローしてしまうトラブルが発生。急遽ノーマルのB18Cエンジンに載せ替えてサーキットフェスタ本番を迎えることとなった。
「6年前の筑波と同じ流れになってしまいました(笑)。それでも仲間の協力もあってなんとか載せ替え作業を終えて参加することができました。予選では1分28秒1でクラス3番手だったんですけど、まあノーマルエンジンだからこんなものかなという感じで。そうしたら今度は決勝でステアリングのチルト機構がフリーになってハンドルが上下にめちゃくちゃ動く状態になっちゃって(笑)。最初から最後まで波乱含みの展開でしたけど、そのまま3番手をキープして完走できたので、まあよしとしましょうという感じです」
そのように当日のハプニングを振り返ってくれた古川さん。今後もワンダーシビックはサーキット用としてバージョンアップを続けていく予定だというので、どのような進化を遂げていくのか楽しみだ。
(photo:Akio HIRANO 平野 陽、text:Hideo KOBAYASHI 小林秀雄)
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