【K型スワップ】魅せるだけでなく「走り」にも拘る! K20A換装チューン黎明期から進化を続けるシビックフェリオ
大規模なカーショーに参加し、美しさと速さを兼ね備えるクルマの価値が高まっている。大阪府摂津市の『タクティカルアート』が製作したEG9型シビック・フェリオは、多くの人の手に渡りながら、ショーカーとしての価値を保つ好例だ。かっこよく走れるクルマに今すぐ乗りたい! そんな純粋な想いに応えられる”器”は、その輝きを失うことがないのである。
(Honda Style 103号/2021年9月発売号に掲載)
ショーカーとしての価値を繋ぐK20A換装シビック・フェリオ
「スポーツシビック」の愛称とともに、1991年に登場した5代目モデル。いわゆるEG世代のシビックは、従来モデルと同様に3ドアハッチバック、セダン、そして後に北米から輸入販売されるクーペという3つのボディバリエーションが存在した。
新たに「フェリオ」のサブネームが与えられた4ドアセダンは、ハッチバックと同様に四輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションを備え、上位グレードにはB16A型DOHC VTECユニットを搭載するスポーティグレード「SiR(EG9型)」も設定されるなど、スポーツシビックの名称にふさわしい内容となっていた。
そんなEG9型シビック・フェリオをベースに、大阪府摂津市にあるプロショップ『タクティカルアート』が製作した車両は、エンジンやトランスミッションをDC5型インテグラ・タイプRから移植、さらに他車種のK20A用純正パーツを組み合わせて搭載している。
室内は2シーター化され、ロールケージが組まれるなど徹底的な作り込みがなされているが、いっぽう外観はほぼストックをキープするというオトナっぽい仕上がりが印象的だ。同店代表の坪内厚樹さんに、製作の経緯を伺った。
坪内:「毎年、名古屋で開催されているWekfestジャパンというイベントがあるんですが、このフェリオは第2回開催時に出展したクルマです。なので7年前くらいだと思いますが、当時のオーナーさんから依頼を受けて製作しました。ちょうどFacebookやInstagramが盛り上がり始めた時期で、いわゆる『映え』を意識して取り組んだ初期のクルマと記憶しています」
当時はまだ乏しい情報を元に試行錯誤していたことも多かったそうだが、B型やK型のスワップがいち早くトレンド化したアメリカでは、すでにいくつかのメーカーが車種専用スワップキットをリリースしていた。
坪内:「そういった情報が、SNSを通じて早く伝わることを肌で感じ始めた時代でもありました。当時からアメリカでホンダ車向けのパーツを開発していた代表格がハイブリッド・レーシングとK−Tunedの2社です。マウントはハイブリッドがイノベーティブ・マウント、K−Tunedがハスポートとそれぞれ分かれていて、当時は二者択一でした。このフェリオはハイブリッド・レーシングのキットを使っているんですが、あらためて見ると当時の苦労や思い出が蘇ってきます(笑)」
豊富なノウハウと卓越した技術が実現したK20Aスワップ
そんな坪内さんが製作したシビック・フェリオは、エンジンが載る『器』の役割を果たすエンジンベイが塗装され、部品の移設や撤去といった方法を駆使して見栄えをガラリと変えている。通常のエンジンルームは電気配線や水回りなどの配管が目につくが、それらを極力隠して目立たなくしている。
エンジンおよびトランスミッションは、DC5型インテグラ・タイプRのK20A型直列4気筒DOHC i-VTECと6速MTを移植。ハイブリッド・レーシングのプーリーキットでエアコン/パワステレス化された。
ライワイヤー製のエンジンハーネスと、マニュアルブレーキコンバージョンキットを装着。配線類をキレイにまとめ、ブレーキマスターバックのない、すっきりとした見た目を実現させている。
燃料圧力を安定させる、ハイブリッド・レーシングのフューエルレギュレーターを装備。エンジンマウントはイノベーティブ・マウント製。エンジン換装作業を容易にしてくれるスワップキットの存在は、カスタム&チューニング大国のアメリカならではといえる。
吸気系は、DC5型インテグラ・タイプR用K20Aのインマニよりも水平に近い形で取り付けができる、FD2型シビック・タイプR用K20Aのインマニを採用。アダプターを介してCL7型アコード・ユーロRの純正スロットルボディを装着し、吸気性能を向上させた。
いっぽう排気系はエキゾーストマニホールドはワンオフ製作し、吸排気とも効率をアップ。エンジンの換装作業に伴う、様々な「作り物」に対応できるのも、タクティカルアートの強みである。
ハイブリッド・レーシングのKスワップ・ハーフサイズラジエターを装着。2層式オールアルミ製で、取り付けに必要な付属品もセットされている。純正ラジエターとほぼ同じサイズだが、街乗りではジャストフィットとのこと。
様々な魅せ技が駆使された2シーター・セダン!
おとなしめの外観とは対照的に、インテリアは相当にスパルタン。室内は室内はリアシートを撤去した上でダッシュ貫通式のロールケージが組まれ、バーリング加工を施したガセットを追加して強度を増している。ステアリングはスーパーライセンスの3スポークだ。
トランスミッションはDC5型インテグラ・タイプR用6速MTに換装され、ハイブリッド・レーシングの代表商品でもあるショートシフターが装着される。アルミビレット製で剛性感が高く、レバーの高さ調整も可能。EK9型シビック・タイプR用シフトノブとの相性も抜群だ。
フロントシートは両席ともBRIDE製フルバケットシートを装着したハードコアな仕様。サイドバーもがっちりと溶接され、ボディの剛性アップに貢献。ステアリングはNRGのクイックリリース付きボスを装着しており、乗降性にも配慮している。
インテリアはリアシートやカーペット類が取り外され、一度ドンガラにしてからフロア全体をエンジンルームと同色で塗装。機能美も感じさせるロールケージが張り巡らされる。フューエルポンプカバーがカーボンというのも色気がある。
そして坪内さんいわく『表に出ない苦労が隠れている』のが、フロントバンパーなのだとか。
坪内:「サージェントというメーカーのEGシビック用フロントバンパーを使っているんですが、フェリオのフロント周りはっハッチバックやクーペと同じように見えて、じつは微妙にフェンダーやヘッドライトが違うんです。そのためハッチバック用バンパーの両サイドを、フェリオのフェンダーラインに合わせて延長加工しています。自然な見た目にするためにけっこう苦労しましたね(笑)」
ホイールは15インチのエンケイRPF1で、タイヤはファルケンのアゼニスRT615kを組み合わせる。理想的なローダウンを実現している車高調整式サスペンションは、タクティカルアートのオリジナルだ。全長調整式で33段階の減衰力調整機構を備えており、ルックスだけでなく走りの性能もしっかりと高めることができる。
リアサスペンションには、「ファンクション7」のアルミ製ロアコントロールアーム&ブレースを装着。ブッシュを含めた剛性アップはもちろん、はっきりと個性を主張するリアビューも実現している。
このように、見えざる部分にも様々な匠の技が込められたシビック・フェリオ。オリジナルオーナーの手を離れた後、さまざまな経緯を経て再びタクティカルアートの元に戻ってきたが、今後は新たに九州在住のオーナーのもとへ嫁ぐことがすでに決まっているという。『走れるショーカー』の進化は、今後も止まることなく続きそうだ。
(photo:Akio HIRANO 平野 陽、text:Hideo KOBAYASHI 小林秀雄)
www.tactical-art.jp