【ホンダアクセス】ModuloがS660で目指したスポーツカーの理想型。「実効空力」を追求しユーザーに寄り添う
2022年3月末、ホンダの軽オープン2シーター・S660は生産終了を迎えた。その存在は、ホンダの純正アクセサリーを担うホンダアクセスにとって、どのような位置づけだったのか。
S660 Modulo Xの開発責任者である松岡靖和さんと、長きにわたってModulo開発アドバイザーを務める土屋圭市さんのお二人に、純正アクセサリー開発とS660の関係、そしてS660 Modulo Xの開発によって得たものについて伺った。
「S660の純正アクセサリー開発で、Moduloはさらにレベルアップした」
S660 Modulo Xの開発責任者であるホンダアクセスの松岡靖和さんと、Modulo開発アドバイザーを務める土屋圭市さんのインタビューは、いかにも土屋さんらしい一言で始まった。
土屋:S660の純正アクセサリー開発を通じて、Moduloはレベルアップしたよね。その知見をフルに投入したのが、S660 Modulo Xなんだ」
2022年3月末をもって生産が終了されたS660だが、そのファイナルエディションともいえる「Modulo X Version Z」は、ひとあし早く2月の段階で最終ロットの出荷を終えた。本取材が行われた3月上旬は、S660にとっての節目といえるタイミングだ。
そこでModulo開発アドバイザーとして用品開発に関わってきた土屋さんから、まずはS660の純正アクセサリーについて振り返っていただこう。
「土屋さんが、ターゲットユーザーを明確にしてくれました」
土屋:最初にModuloに関わったのは、FD2型シビック・タイプRのサスペンション開発だったね。その頃は、まだ経験が足りないと感じるところもあった。もちろん優秀なスタッフだから、クルマのことは理解している。だけどアフターパーツに求められる価値、お金を出したお客様が満足するにはどうすべきかという点については、これからだなという印象だった。
そんな想いは、S660の純正アクセサリー開発時にはどのように進化していたのだろうか。
土屋:正直に言うと、用品を開発している段階ではまだまだだったよ。というのも、サーキットを走るようなオーナーは、最初から社外品の車高調サスを組んで、さらにコンピュータチューニングをするケースが多い。だからModuloに期待されているのは、そこじゃなく別のコンセプトだと思ったんだ。でも当時は、まず「速く走る」ことを最優先にしたような方向を向いて開発が進んでいた。だから『そうじゃない』と口酸っぱく言ったんだ。
松岡:土屋さんのアドバイスは説得力もあり、非常に効果的でした。土屋さんが目指すべきところを明確にしてくれたことで、我々にとって大きな力になりました。
「アルミホイールのブラインドテストはシビれたね」
そんな土屋さんも、S660の用品開発では驚いたことがあるという。
土屋:アルミホイールといえば軽くて剛性があればいいと思っているかもしれないけれど、クルマの周波数に合わせて、適度にしならせたほうが走りのパフォーマンスは上がる。当時はレース屋さんもそんなことはしていなかったけれど、ホンダアクセスのスタッフが『たわむホイール』にチャレンジしていたのは記憶に残るね。
その開発テストでは、剛性の異なるホイールが何種類も用意され、ドライバーには違いを知らせず「ブラインドテスト」が行われたそうだ。
土屋:1日目はなにが違うのかまったくわからなかったけれど、徐々に違いがわかるようになってくると、こんな部分まで煮詰めていくホンダアクセスという会社は凄いと思ったね。その成果は、最新のフィットe:HEV Modulo Xにも活かされている。S660の用品開発は、確実にModuloの走りをレベルアップさせたよね。
エアロダイナミクスによりハンドリングを向上させる『実効空力』は、Moduloに受け継がれるコンセプトのひとつだ。その点について、松岡さんは次のように教えてくれた。
松岡:S660のスタイリングは、ショーモデルの『EV-STER』を再現しているため、ベースの状態ではリアのダウンフォースが不足気味でした。用品として開発したアクティブスポイラーは、我々の「実効空力」コンセプトを象徴するアイテムです。空力効果を高めつつ、スタイリングの狙いをスポイルしないよう電動格納方式としたのは我々のこだわりです。
松岡さんは、S660用純正アクセサリーを開発していた段階から、コンプリートカーのS660 Modulo Xを意識しており、2018年の発表・発売に向けて土屋さんと共に開発を進めていったという。
土屋:酸いも甘いも嚙み分けた、ベテランドライバーたちを満足させる仕様にするようアドバイスしたから、ModuloやModulo Xを現在のカタチにすることができたんだ。
松岡:S660 Modulo Xについては、本当に「やりきった」という想いが強いです。S660 Modulo X Version Zについても、あれほど多くの反響を頂いて嬉しく思います。そして私自身も、なんとかオーダーが間に合って購入することができました。振り返ってみれば、自分自身がターゲットユーザーだったんですよね(笑)。
S660 Modulo 純正アクセサリー装着車
(photo:Yoshiaki AOYAMA 青山義明、text:Shinya YAMAMOTO 山本晋也)
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