【ホンダアクセス】手軽に楽しむアウトドア・カーライフ! 『N-WGN PICNIC』開発者インタビュー
2022年の東京オートサロンおよび大阪オートメッセに、ホンダアクセスが制作・出展したショーモデルが「N-WGN PICNIC」だ。同じくホンダブースに展示された「K-CLIMB」と比べ、N-WGN PICNICの場合はショーモデルとしてのインパクト重視から実現可能な提案型モデルへと、雰囲気が変わった印象もある。その狙いはどこにあるのか、開発に関わったデザイナーの皆様に話を伺った。
外板や骨格はそのまま現実性を重視
まずは「N-WGN PICNIC」の概要から見ていこう。ボディカラーはグレイッシュブルーとマットアイボリーの2トーンで、これはラッピングではなく、しっかりとオールペンされているのはショーカーらしいところ。愛らしいマスクは完全オリジナルで、新規制作されている。
汎用品のヘッドライトを使ったフロントマスクは、灯火類を丸で統一することでクラシカルなイメージを演出。ヘッドライトベゼルはリアルウッドの削り出しで、ウインカーは英国ルーカス製の古いタイプをオレンジに塗っているのがこだわり。グリルには七宝の模様を使っている。
ボディサイドの木製ガーニッシュはリアルウッドによる凝ったものだが、基本的には貼り付けてあるのみ。リアルウッドによるガーニッシュがボディを一周することで、もともとボディサイドにキャラクターラインを持たないN-WGNのイメージが大きく変化している。
アルミホイールは、ホンダアクセスが純正アクセサリーとして用意している「MC-001」をベースに、リム部分をボディ同色のマットアイボリーにペイントした仕様。ホイールをより小径に見せるだけでなく、ホワイトリボンタイヤのような懐かしい雰囲気を実現している。これらはユーザーレベルでも取り入れられそうな手法で、身近なカスタマイズという印象だ。
車名からもわかるように、基本コンセプトは「ウィークエンド・ピクニック」というライトなカスタマイズなのもユニークなところ。最近の流行りに乗るのであれば、軽キャンピングカーや車中泊仕様といったディープな方向へ行きそうなものだが、あえて日常での使い勝手を意識したカスタマイズでまとめている。
そのためインテリアも、基本的にはベース車のデザインを踏襲。運転席まわりでは、本革のステアリングホイールやシフトノブによって彩られている。助手席トレイのパネルは本物のウッドを使った仕様で、ブラウン系のレザーアイテムとのマッチングも上々だ。
シート表皮はあえてシートクロスとして、アクセサリー感を強調する。SDGs的な時代ニーズも考慮してフロアマットはリサイクルデニムを使っている。下向きに配されるティッシュボックスもナイスアイデアだ。
本革になったテールゲートストラップも含めて、純正アクセサリーの色違い・素材違いといったバリエーション展開のようなイメージさえある。
そんなこともあってか、東京オートサロンや大阪オートメッセの会場では『過去のショーカーに比べると現実味がありますね」という声も聞かれたという。言い換えれば、ショーカーらしい華やかさより「実」を強めたとなるが、はたしてその評価は狙いどおりなのだろうか。
お互いのアイディアを補完し合う
N-WGN PICNICというショーカーは、どのようなスタンスで生まれたのだろうか。まずは、エクステリアを主に担当したというデザイナーの大西優一さんに伺った。
大西:もともとのアイディアは、東京オートサロン/大阪オートメッセに向けたものではありませんでした。ホンダアクセスのデザイナーとして、将来に向けた新しいビジネスモデルやアイディアを考えるという、ある種の社内コンペというか、広い意味でのアドバンスドデザイン活動のようなものがありました。そこに向けて自分が考えていたプランが、原点になっています。
その段階では、大西さんひとりのアイディアだったというが、そこに松本理沙さんが加わったのには、どのような背景があったのだろうか。本来はモデラーながら、今回のプロジェクトではインテリアデザインを担当した松本さんは次のように話してくれた。
松本:弊社のデザインセクションはワンフロアにまとまっていて、他の人が何をやっているのか見えるような環境なのです。先ほど話にあったアドバンスドデザイン活動において、大西と私が非常に似た方向であることはわかっていました。そこでお互いのプランを合わせ、ブラッシュアップしていくと、より良いアイディアになっていくだろうという感触がありました。
大西:そんなタイミングで、我々のアイディアを具現化したショーカーで、東京オートサロン/大阪オートメッセに出展するという話が生まれました。将来の話だと思っていたことが、急に目の前のプロジェクトに変わったのです。
そして松本さんによると、この時期に3人目のメンバーが加わったという。
松本:より具体的なアイディアを出していくために、デジタルモデリングを専門にしている山田を誘いました。異なる強みを持つメンバーで具体的なカタチにしていく案を出していったのです。アイテムの具体案には、プライベートで実際にピクニックをしている山田のアイデアが盛り込まれています。
3人のなかでは最後に加入した山田紀織さんは、どのように感じていたのだろうか。
山田:「その段階で整理されていたプランは、『用品で生活を楽しくしたい、日常・非日常を豊かにする』というものでした。アウトドアレジャーは流行っていますが、キャンピングカーでは非日常に過ぎるかなと。そこで、ちょっとした空き時間に気軽に楽しめる『ピクニック』のアイディアを盛り込むことが、コンセプトを具現化すると考えました」
オンラインでも「ワイガヤ」
大西:そうしてショーカーを作ろうと決まったのは、たしか夏過ぎだったと思います。オートサロンは1月上旬ですから年内に完成させなければいけません。3人ともショーカーに付きっきりというわけではなく、あくまで本来の業務をやりながら進めるという状況でした。時間の余裕がほとんどないという状況下で、プロジェクトを進めなければなりませんでした。
そう大西さんは教えてくれたが、新生活様式下ならではの苦労もあった。
松本:新型コロナウィルスの影響もありテレワーク主体ですから、出社して顔を合わせるというのが難しい状況でした。そのためオンラインミーティングでかなり進めた部分もあります」
しかしオンラインだから不利かというと、そうでもなかったようだ。
山田:スケッチは大西が担当したのですが、オンラインで何時間も繋ぎっぱなしにして、アイディアを出し合いブラッシュアップしていったこともあります。みるみるスケッチが具体的になっていきました。結果として、1日でアイディアスケッチを描くことができ、そこから具体的にカタチにしていく作業を進めていくことになりました。
ホンダには『ワイガヤ』という、アイディアを生み出す伝統的なコミュニケーション文化がある。このショーカーの初期アイデアを煮詰めた当時の状況を話す3人の楽しそうな表情を見ていると、オンラインであってもワイガヤ精神は生きているということが感じられた。
やがて具体的なプランが決まってくると、実際のカスタマイズ作業に進んでいく。非常に短い時間ながら、リアルウッドのガーニッシュやオリジナルバンパーなどをカタチにするのは決して余裕のある作業ではなかったという。
松本:ウッドガーニッシュは、3Dデータをお渡しして加工していただきました。個体差のある素材ですが、色味や木目の合わせ方など工夫して仕立てていただき、本当に感謝しています。
山田:ボディを二色に塗り分けるラインは、私たちが実際に車両へテーピングして決めています。塗り分けの検討もデータで進めていましたが、実物を見ながらの調整は必要で、ショーカー制作というのは手仕事だなと思いました。
大西:冒頭にお話があったように、東京オートサロン/大阪オートメッセの会場では地味に見えた部分はあるかもしれません。しかしN-WGN PICNICは夢のショーカーではなく、ホンダアクセスの未来を担うアイディアを入れ込んだ、もっと具体的なモデルです。これから様々なイベントに、このクルマを出していきたいと思いますので、ぜひ見ていただきたいと思います。
大西さんが話してくれたように、今回N-WGNをベースに選んだのは『ピクニック』という身近なテーマであったことが大きな理由。ウィークエンド・ピクニックという場面を想定したとき、テールゲートを開け放って家族がワイワイと楽しむというシチュエーションにはN-WGNが最適なキャラクター&パッケージだったからだ。
たしかにN-BOXやN-VANをベースにするなら、本格的なキャンピングカー仕様がすでにアフターマーケットに存在しているわけで、N-WGNだからこそ『ピクニック』というキーワードが際立ってくる。
その意味では、N-WGN PICNICに装備された折りたたみ式テーブルは、純正アクセサリーへのフィードバックをぜひ期待したいアイテムだ。
ラゲッジボードの表面にウッドパネルを貼り付け、外装とのイメージを統一。さらに折りたたみの脚をつけることで、ピクニックのときには車外へ持ち出してテーブルとして活用することができるのだ。
(photo:Kiyoshi WADA 和田清志、text:Shinya YAMAMOTO 山本晋也)
www.honda.co.jp/ACCESS/