【新型N-BOX】誕生10周年を迎えたN-BOXがEPB搭載で利便性アップ。新ブランド「STYLE+」の特別仕様車も発表
2011年12月16日はホンダN-BOX(初代モデル)が発売された記念すべき日だ。ちなみに、正式発表されたのは同年11月30日となっている。「N」という文字を使った『New Next Nippon Norimono』というキャッチコピーを覚えているという人も少なくないのでは?
いずれにしても「日本にベストな新しいのりものを創造したい」という想いで作られた初代N-BOXは大ヒットモデルとなった。当時の軽自動車市場はスズキ・ダイハツの二強とそれ以外とユーザーが認識している中で、ホンダは一気にシェアを拡大していったのはご存知の通り。
そうしてホンダの新世代軽自動車「Nシリーズ」をけん引してきたN-BOXは、現行型にフルモデルチェンジしてからも好調に売れている。直近2021年11月には1万5482台を販売、登録車も含めて日本で一番売れている新車となっている。そんなN-BOXがマイナーチェンジを発表した。
表立って発表された改良ポイントは、ただひとつ。EPB(電子制御パーキングブレーキ)の採用にある。すでにN-WGN、N-ONEといった他のNシリーズには搭載済みのEPBだけに驚きはなく、むしろ「やっとか」と感じる向きも多いのではないだろうか。
当然ながら、N-WGNなどと同じようにオートブレーキホールド機能付きとなっているので、信号待ちなどではブレーキペダルから足を離してもクルマは停止状態をキープすることができる。EPBの搭載に合わせてホンダセンシングのACC(追従クルーズコントロール)も、停止までカバーする渋滞対応ACCへと機能強化された。
このあたり、ライバルモデルに対するN-BOXのウィークポイントといえただけに、今回のマイナーチェンジで一気にキャッチアップしたといえる。むしろ、全車にEPBとホンダセンシングを標準装備するN-BOXはライバルに対して圧倒的な商品力アップになった。最強の軽自動車が、さらにレベルアップしたというわけだ。
気になる価格については、最廉価モデル(G FF)が144万8700円、最も高価格のモデル(L・ターボ コーディネートスタイル 4WD)が225万2800円と、事前の予想よりも抑えられているといった印象だ。
今回のマイナーチェンジでは、EPBの追加以外にはほとんど変更点はないといえるが、同等グレードで比較するとメーカー希望小売価格はおおむね1万9800円アップとなっている。EPBの部品代、その搭載によるユーザーベネフィットを考えると、実質タダと思えるほど最小限の価格アップにとどまっているといえるだろう。
現在のN-BOXの開発責任者(LPL)を務めているのは宮本 渉さんだ。宮本さんは、初代N-BOXから開発に携わってきたエンジニアで、Nシリーズの生き証人ともいえる人物。そんな宮本さんに10年を振り返ってもらおう。
「当時のホンダはグローバルを向いていました。ホンダの軽自動車はどうなるんだ? という見方が世の中にあったのも認識しています。その中で、地方の足として欠かせない存在である軽自動車を『お客様目線』で考え直したのがNの開発思想になります。たとえば、塾で遅くなったお子様を迎えに行きたいというニーズ、そのときに必要なのは簡単に自転車を載せることができるパッケージです。それには広い荷室、低い荷台が必要になります。そのためにエンジンをコンパクトに設計、センタータンクレイアウトによって荷台も低くしました」
「ともすればホンダのクルマ作りは『これは凄いだろう』という風になりがちなのですが、Nシリーズはスペックやメカニズムありきではなく、お客様目線を常に重視してきました。そうした思いは、これからも変わりません」
EPB搭載においては部品供給の確保など課題も多かったというが、ユーザーニーズとしてN-BOXをこのまま足踏み式パーキングブレーキにしておくというのは考えづらい。コロナ禍によるサプライチェーンの分断や半導体不足など安定製造に課題の多い時期だが、お客様目線で考えたときに、そうしたハードルを越えてN-BOXにEPBを標準装備することは絶対に実現すべき進化だったというわけだ。
もうひとつのニュースは、Nシリーズ10周年を記念して「STYLE+(スタイルプラス)」というサブブランドが生まれたことだ。これはNシリーズに水平展開していくもので、第一弾として特別仕様車「N-BOX Custom STYLE+ BLACK」が用意された。
フロントグリル、リアライセンスガーニッシュ、ドアアウターハンドル、エンブレム類などをブラックとして外観を引き締め、インテリアではメタルスモーク加飾を幅広く使うことで上質感を演出。N-BOX Customのスタイリッシュな世界観を強調する仕様となっている。
メーカー希望小売価格は、NAエンジンが192万9400円~206万2500円、ターボが205万7000円~219万100円となる。この価格帯から、50代以上のダウンサイザーがメインユーザーとなるだろうが、スタイルプラス・シリーズがすべてそうしたユーザー層をターゲットにしているわけではないようだ。
N-BOXの商品企画を担当する矢野達也さんによると、今後、N-WGN、N-ONE、N-VANそしてN-BOXにもうひとつのスタイルプラスを設定する予定であるという。それぞれターゲットユーザーの設定は異なり、また世界観も違ったものになるという。必ずしも、今回のようなブラックをアクセントにする仕様がスタイルプラスの流儀というわけではない。
さて、現行Nシリーズのラインナップを見ると、メインストリームであるスーパーハイトワゴンのN-BOX、軽自動車の基本スタイルといえるハイトワゴンのN-WGN、趣味性・パーソナル性の強いN-ONEといったラインナップになっている。現在の軽自動車市場でシェアを広げている、クロスオーバーSUV的なモデルがないことは課題といえそうだ。
この点について矢野さんに話を伺うと、「ライバル他社がそうしたタイプの製品を出し、市場で受け入れられていることは十分に理解しています」というから、これからの10年でそうしたカテゴリーへの新製品投入といったこともあり得そうだ。
ちなみに、ホンダの三部敏宏社長は、2024年に軽自動車にBEV(電気自動車)を登場させることを宣言している。しかし、300万円も400万円もするようなBEVを出したところで、軽自動車ユーザーに受け入れられるかといえば疑問だ。
N-BOXのLPLである宮本さんは、航続距離なども含めて、軽自動車に乗っているお客様が納得できるようなBEVを出していかねばならないと考えていますと話していた。ホンダの軽BEVは、やはり徹底したお客様目線によって生み出されることになりそうだ。
(text:Shinya YAMAMOTO 山本晋也)