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ホンダ、社員の起業を応援する新事業創出プログラム 「IGNITION」をスタート。起業第一弾の株式会社Ashirase(あしらせ)を設立

ホンダは、社会課題の解決と新しい価値の創造につなげる新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」の全社展開を開始したことを発表した。同時に、このプログラムを利用した起業第一弾となる「株式会社Ashirase(あしらせ)」が設立されたことも発表されている。

靴に装着した「あしらせ」とスマートフォンアプリ

まずは、新事業創出プログラム「IGNITION」誕生の背景について説明しよう。

2021年4月から全社的に展開しているという同プログラムの原型が生まれたのは、2017年のこと。研究開発子会社である本田技術研究所で始まったという。とはいえ、当初は「社内での事業化」を前提とした事業アイデアのコンテストという色合いが濃かったそうだ。

しかし、ホンダという大きな組織だからこそできる事業もあるが、大所帯ゆえにスピード感という点では小さな組織に敵わない部分もある。そこで2020年には、「ベンチャーを起業して事業化を目指す」という方法がIGNITIONに追加された。さらにベンチャーキャピタル(投資会社)とも連携することで資金調達の幅も広げている。

IGNITION審査員長 水野泰秀氏

そもそも、このプログラムにおいて起業する場合、ホンダの出資比率は20%以下に抑える方針となっている。ホンダの色がつかない新事業を生み出すことが狙いだ。それは社会的課題の解決や新たな価値の創造といった意義あるビジネスモデルであれば、ホンダの事業に無関係であってもゴーサインが出るという意味でもある。

そうして起業した後の道筋は2つある。独立したまま事業を継続するというのもありだし、事業内容によってはホンダにスピンインするという道もあるという。

株式会社Ashirase代表取締役 千野 歩 氏と「あしらせ」

そして、IGNITION発のベンチャー第1号となったのが『株式会社Ashirase』だ。

同社の代表取締役である千野 歩(ちの わたる)さんは、ホンダでは自動運転などの研究をするエンジニアだった。しかし視覚障害者の身内が道を踏み外して亡くなるという不幸があったことから、視覚障害者向けの徒歩移動をサポートするシステムを考え始めたという。そうしたアイデアをIGNITIONに提案、ベンチャーキャピタルも交えた審査を経て、起業することになった。

その仕組みは、GNSSによる測位情報と、モーションセンサーにより取得したユーザーの足元の動作データから、誘導情報を生成するというもの。さらに、視覚障害者は白杖を持つ手や周囲の音を聞く耳からの情報によって安全を確認しているという面があるため、そうした部分の邪魔をしないよう、足への振動でナビゲーションを行うという配慮もされている。

足にお知らせするから、社名はAshirase(あしらせ)になったというわけだ。

自動運転の究極目標は運転できない人でも自由に使える移動手段といえる。モビリティの原点である歩行において視覚障害者(今回の対象はロービジョンを呼ばれる弱視の方)をサポートしようというのは、ホンダの中で自動運転を研究していた千野さんだからこそ思いついたアイデアといえるのかもしれない。

なお本プログラムを利用して起業する場合、ホンダを退社するのではなく、あくまで休職扱いとなっているという。もし事業化に失敗してもホンダに戻ってくるという道筋は残されているのだ。もし起業に失敗したとしても、新規事業にチャレンジしたという経験を持つ人が会社に戻ってくるというのは、ホンダ内における多様性に大いにプラスになることだろう。


株式会社Ashirase代表取締役 千野氏(中央)、IGNITION審査員長 水野泰秀氏(左)、リアルテックファンド代表 永田氏(右)

イグニッションというのは点火という意味で、自動車好きからするとエンジンをかけるというニュアンスが強いだろう。まさに情熱エンジンを始動させるという意味で、このプロジェクト名はピッタリだ。今後も、社会に貢献する事業がホンダから生まれてくることに期待したい。

(text:Shinya YAMAMOTO 山本晋也)

株式会社Ashirase公式ウェブサイト
https://www.ashirase.com/