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MTだけがスポーツじゃない!! S660のCVTモデルが教えてくれた、ホンダスポーツの楽しさと「ゆるスポ」のコンセプト

ついに2022年3月末にて生産を終了することが発表された、ホンダの軽オープン2シーター・スポーツ「S660」。そのメディア向け発表会の会場では、最後の特別仕様車として『S660 Modulo X Version Z』が披露されるとともに、標準モデルのS660(CVT車)も展示された。

2020年1月にマイナーチェンジを受け登場したS660後期型(アクティブグリーン・パール)

S660の販売が開始されたのは2015年のこと。軽自動車のサイズで専用設計のミッドシップシャシーを持ち、オープンエアが楽しめるソフトトップが与えられた2シーター・スポーツとして登場した。

ホンダにとってスポーツモデルの祖といえる、S500/600/800やS2000から繋がる「エス」の車名を抱き、さらに軽自動車のオープン2シーターという成り立ちは、かつてのBEATの再来を感じさせるもので、S660は発売開始から売れに売れた。

販売開始当初は全国のホンダカーズにおいて「第○期オーダー」という期間限定の販売形式が採られ、それでも納車まで約1年待ちという状態になったほど。そして約6年間にわたって販売された2021年3月現在、S660の累計生産台数は約3.2万台に達しているそう。

そんなS660の大きな特徴は、2ペダルのCVTモデルを設定したこと。近年、大排気量&高出力のスーパースポーツはDCTが中心に2ペダルのモデルが多くなってきているが、それでもスポーツカーのトランスミッションといえば3ペダル式MTっていうイメージは強い。

ましてライトウェイト・スポーツに分類されるモデルではその傾向が強かったが、S660では販売当初より2ペダルのCVTが設定された。それは「エス」のルーツであるS500/600/800はもちろん、S2000でも、同じ軽2シーター・スポーツのBEATでも、そしてホンダのスポーツモデルという点ではタイプRシリーズでも無かったこと。

あるいは『出来なかったこと』と言えるかもしれない。

1990年に登場した初代NSX。日本初の量産スーパースポーツカーだが、5速MTに加え販売当初から4速AT車が設定されていた

唯一の例外といえるのはNSXで、初代モデルはタイプSやNSX-Rといった特殊なモデルを除いて4速ATが設定されていたし、第二世代となる現行モデルはDCTのみとなっている。

S660はホンダにとって初代NSX以来となる、3ペダルMTと2ペダルCVT(NSXはAT)を併売するモデルとなったが、その判断の背景には、S660が開発当初に掲げた「ゆるスポ」のコンセプトが息づいているといえるだろう。

2017年に設定された特別仕様車の「#komorebi edition」。ベース車両はβのCVT車だった

開発スタート時に掲げられた「ゆるスポ」とは、スポーツカーの定義を「速さ」ではなく、「もっとみんなが気軽に買えて、思うままに操ることのできる」というコンセプト。

その後、S660の開発は幾度かの変遷を経て「ガチスポ」となったのはご存知のとおり。しかし、どんな人にもフレンドリーでスポーツカーの世界観を楽しめるという「ゆるスポ」のコンセプトは、CVTモデルの設定という形で受け継がれた。

6MTを補完するのではなく、2ペダルならではの魅力を備えたS660のCVTモデルは、それまでホンダスポーツの走りに接する機会のなかったユーザー層にも、その楽しさを届けることに成功した。前述のとおりS660の累計販売台数は約3.2万台に達しているが、そのうちの約4割がCVTモデルだという。

S660 β特別仕様車「#komorebi edition」のインテリア

印象的だったのは、2017年に設定された特別仕様車「#komorebi edition」である。ベース車両はエントリーグレードのβ、しかもCVTのみ。内外装はブラウンを基調としたカラーで統一し、CMキャラクターも女性を起用するなど、それまでのスポーツイメージとは異なるオープン・シティコミューターとしてのS660の魅力を打ち出した。

2018年に発売されたS660 Modulo Xは、2020年にマイナーチェンジを受けて継続販売中。Version Zの追加後も併売される

派生モデルでいうと、ホンダアクセスが開発を手掛けたコンプリートカー・S660 Modulo Xや、2016年にM-TECが限定販売したS660 MUGEN RAという2台にもCVT車が設定されることからも、S660におけるCVTモデルの存在意義や価値の大きさが窺える。

惜まれつつも2022年3月での生産終了がアナウンスされたS660。本誌ホンダスタイルでは、S660が教えてくれたスポーツカーの楽しさについて、次号以降もあらためて多方面から検証していく予定なのでお楽しみに!

(text:Honda Style magazine)