【名車図鑑】直列5気筒FFという独創的なレイアウトに、上質な内外装を組み合わせた「アスコット&ラファーガ」
1990年代のホンダは独創的なコンセプトを持つクルマを次々とデビューさせたが、なかでも国産の他メーカーにはない機構を持っていたのが、アスコット&ラファーガの兄弟車である。
前輪を駆動輪とするFFの場合、エンジンとミッションは横置きとするのが一般的だが、アスコット&ラファーガでは縦に配置した「縦置きFF」を採用。その主な目的は、フロントミッドシップ化による優れたハンドリング性能を獲得するためであった。
フロントにエンジンを搭載してフロントタイヤを駆動輪とするFFレイアウトは、エンジンを車体に横置き搭載するのが一般的だ。
それは主にパッケージング効率の問題で、エンジンルームをコンパクトにすることでキャビンを大きくできる。車両全体の寸法に制限のあるコンパクトカーほど、FFが主流となっていったのはそのためだ。そんな通例に一石を投じたのが、ホンダが開発を進めた「縦置きFF」レイアウトである。
エンジンの動力をいったん車両後方に向けて出し、トランスミッションを介してUターンさせるように前輪に伝える。そんな独特なレイアウトとなる縦置きFFのメリットは、前後重量配分バランスに優れることと、全長の長い多気筒エンジンを搭載しやすくなること。そこでホンダは、直列5気筒というユニットを組み合わせた。
1989年にアコードからの派生車種として登場したアスコットは、この縦置きFFレイアウトを採用したコンパクトセダンである。2代目モデルは1993年に登場し、5ナンバーサイズのボディに2L/2.5Lの直列5気筒エンジンを搭載していた。
アスコットとラファーガは販売するディーラー系列の違いによる兄弟車で、外装デザインが異なるのみ。4輪ダブルウィッシュボーン式サスを採用し、モデル後期にはスポーツグレードのCSも登場するなど「走りのセダン」としてアピールした。
しかし母体となるアコードのフルモデルチェンジにより、1997年にアスコット&ラファーガともに生産を終了。次期アコードが一般的な横置きFFレイアウトを採用したため、直列5気筒の縦置きFFという独創的なパッケージも姿を消すこととなった。
(text:Kentaro SABASHI 佐橋健太郎)