【現地レポート】インディカー最終戦、復活したラグナセカでゴールデンルーキーが躍動!
いよいよ2019年のNTTインディカー・シリーズも最終戦。例年、シリーズ最後の舞台はカリフォルニア州ソノマとなっていたが、今年は同じカリフォルニア州サンフランシスコ・エリアのまま、ソノマ・レースウェイからウェザーテック・レースウェイ・ラグナセカへと移った。
ソノマはワインの産地として有名だが、ラグナセカは海岸線のリゾート地、モンテレーに位置する。左・右と急激に下りながら切り返す『コークスクリュー』という名物コーナーで知られている。インディカーのレースは、2004年以来の開催となる。
予選では19歳のスーパールーキー、コルトン・ハータ(ハーディング・スタインブレナー・レーシング)がポールポジションを獲得した。これでキャリア3回目、しかも2戦連続PPと気を吐いた。彼はカリフォルニアが地元でもある。
ポイントリーダーとして最終戦を迎えていたジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)は、予選4位。ランキング2番手から逆転タイトルを狙うアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)は、予選3位だった。彼もまたカリフォルニア州の出身である。
そしてもうひとり、ロッシと1点差のランキング3番手につけるシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)にも逆転タイトルの可能性はあり、彼の予選順位は6位だった。
抜けるような青空の下でスタートが切られた決勝レースは、ハータがポールポジションからトップを守り、90周先のゴールまで走り切った。開幕前の合同テストから見せ続けていた驚異的なスピードを、とうとう彼はレースを通じて保って見せた。まさに圧勝といえる勝ちっぷりだった。
今季の第2戦で優勝しているハータは、今回がキャリア2勝目だったが、彼がレースで戦った面々はどれもが名だたる強豪だった。予選2位だった5回のタイトル獲得歴を持つドライバー、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)と序盤戦はバトル。ピットストップを1回挟んでも、ハータは彼を前に出さなかった。
次にハータに襲い掛かったのは、今年のインディ500ウィナーであるパジェノーだった。予選6位から2番手まで大きくポジションを上げた2016年のシリーズチャンピオンは、ハータを攻略し、優勝することで2度目のタイトルに手を届かせようと奮闘したが、それは果たせなかった。パジェノーは4位でフィニッシュし、ロッシを逆転してシリーズランキングは2位となった。
最後は2014年チャンピオンのウィル・パワー(チーム・ペンスキー)。予選は7位だったが、レース中の走りは切れ味抜群で、最後のピットストップを終えると2番手でコースに復帰し、ハータとの差をどんどん縮めて行った。しかしハータは、これら3人にまったく劣らないどころか、彼らに勝るスピードと安定感を披露。自信すら感じさせる走りで90周のうちの83周をリードしてゴールに到達した。
「タイヤにダメージを与えないマシンになっていた。ポートランドでは、速かったがタイヤを摩耗させすぎた。その経験に学び、今日の僕らはディクソンやパジェノーよりタイヤをうまく使うことができていた。パワーには別格の速さがあったが、抑え切ることができ、最後には彼を突き放すことさえできた。勝てる力が今日の僕らには備わっていた。来年が今から本当に楽しみだ」
レースを終えたハータはこう語った。今年のシリーズランキングは7位となったが、来年はトップ5、そしてタイトル争いが目標となるだあろう。そして、それを達成する可能性も十分にある。
参戦初年度にして2勝を記録したハータだったが、ルーキー・オブ・ザ・イヤーはフェリックス・ローゼンクビスト(チップ・ガナッシ・レーシング)の物になった。今シーズン6回目の5位フィニッシュを最終戦で記録したローゼンクビストは、スウェーデン出身の27歳。ミッドオハイオとポートランドで2位フィニッシュしており、優勝はもう目の前だ。来シーズンはさらにレベルアップした戦いを見せてくれるに違いない。
ニューガーデンの最終戦は、フラストレーションの溜まるものだった。「タイトル獲得」と目指す彼は、積極的に優勝を目指さない作戦を選んでいた。隣りの4番手グリッドからスタートしたタイトル争いのライバル、ロッシの姿を常に視界の中に置くこととしたのだ。
この作戦は、レース中に(一時的にだが)失敗したかに見えた。パジェノーが2位に浮上し、優勝する可能性が大きくなっていったときのことだ。しかし、終盤に入ってパジェノーが失速したことにより、ニューガーデンは8位フィニッシュでもチャンピオンの栄冠をつかむことができた。
しかしロッシはシーズン後半戦の走りが、前半戦ほどの勢いがなく、最終戦では優勝争いにまったく絡んで行くことができなかった。2度目のチャンピオンになったニューガーデンは、表彰台で涙を浮かべてこう話した。
「こんなに感情が込み上げてくるとは思っていなかった。ポートランドのレースを終えた後、ポイント争いの厳しさ、チャンピオンになるために必要な条件などを考え、難しさを改めて強く感じた。以来、僕には大きなプレッシャーがかかり続けていた。今、こうしてシーズンが終了してくれ、ホッとしている。自分がチャンピオンになることができ、とても嬉しい。レースで勝つことができても、シリーズチャンピオンになれない……というドライバーは少なくない。チャンピオンになるのは本当に大変。そのチャンスが巡って来たら、確実に手にしなければいけない。2度と訪れないかもしれないから。2度目のタイトルは、1度目よりも喜びが大きい。そんな風に感じるとは考えてもいなかったし、それがなぜなのかもわからない」
佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、予選16位からスタート。トップ10フィニッシュ目前まで行ったが、レース終盤のリスタートでルーキーのサンティーノ・フェルッチ(デイル・コイン・レーシング)に激突され、マシンにダメージを受けて、21位となった。
これにより、琢磨のポイントランキングは6番手から9位にまで下降した。最終戦はダブルポイントで、5位フィニッシュのローゼンクビスト、優勝のハータ、10位となったライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)に抜かれたからだ。
「2ストップで行く作戦でしたが、走り出してみるとそれが難しいとわかったので、早めにピットストップ。そこからは良いペースで走れてグレアム・レイホールの真後ろの11番手まで浮上。トップ10でのゴールは確実と考えていました。しかし、リスタートでフェルッチがぶつかって来た。本当に残念な結果に終わりました」
「しかし今年は2回優勝ができたし、2回のPP獲得、優勝以外にも2度の表彰台と良いシーズンにできました。来年もっと良い戦いができるよう、オフの間に色々な準備を進めたいですね。今年と同じチームから出場する体制となることも、今週中に公式発表できましたから、オフの間もマシンを少しでも速くできるよう頑張ります。今シーズンも多くの方々、そしてファンの皆さんに応援を頂き、本当にありがとうございました」
佐藤琢磨は、インディカー・シリーズ参戦10年目のシーズンをこう締めくくった。
最終戦ラグナセカにおけるコルトン・ハータの優勝は、ホンダにとって今シーズンの8勝目となった。これによりホンダは、2年連続でマニュファクチャラーズ・チャンピオンシップを獲得した。
(text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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