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【現地レポート】強靭な精神力と優れたドライビングの証明。佐藤琢磨選手の今季2勝目は人々の記憶に刻まれるレースに

2019年NTTインディカー・シリーズ第15戦『ボマリト・オートモーティブ・グループ500』において、佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)が優勝した。

6日前にポコノ・レースウェイで行なわれたレースの1周目に起きた多重アクシデントでは、その発端を作ったドライバーとして琢磨が非難の集中砲火を浴びた。しかし、琢磨は自らのラインを保持しており、無謀な運転などしていなかった。

そう自らを信じる彼は、世間からの批判を浴びながらも気丈にゲイトウェイ・レースウェイに乗り込み、素晴らしいパフォーマンスを見せ、考え得る最高のリザルトを掴み取った。クリーンかつクレバーなドライビングによって、驚くべきカムバックは達成された。

スタート直後に5台が巻き込まれたポコノでのアクシデントでは、フェリックス・ローゼンクビスト(チップ・ガナッシ・レーシング)のマシンが浮き上がってフェンスに激突し、ちょうど1年前にロバート・ウィッケンズが下半身麻痺になった悲惨な事故が思い起こされた。人々は犯人探しを始め、琢磨がターゲットとなった。

週が明けてから、琢磨を走らせるレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングがドライビング・データとオンボード映像をシリーズ主催者のインディカーに提出し、琢磨が危険なドライビングをしていなかったことをアピール。アクシデントを再検証したインディカーは琢磨にペナルティを課さなかった。琢磨とチームの主張が受け入れられ、潔白が証明された形だ。

それでもゲイトウェイでの琢磨は、アクシデントを起こすことなくクリーンに戦い切るというプレッシャーに晒されていた。最初のスタートは特に慎重に切ると、すぐ後ろのグリッドからジェイムズ・ヒンチクリフ(アロウ・シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)がインに飛び込んで来て、ターン1でバランスを崩し、琢磨にヒットした。

その外側には、ポコノでクラッシュしたライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)がいて、ぶつけられて走行ラインがグラついた琢磨は彼に接触! しかし2人のベテランはこの危機をどうにか切り抜け、2戦連続の多重アクシデントは回避された。

予選5位だったというのに、ターン1でアクセルを戻した琢磨は1周で13番手まで後退。序盤のマシンはハンドリングが悪く、早めにピットストップをしたことで最下位に転落し、周回遅れにもなった。

しかし、フルコースコーション中に2回目のピット・ストップを行ってセッティングを調整すると、琢磨はスピードアップ! 3回目のピットもイエロー中にこなし、燃費セーブとスピードの両立を達成したことで琢磨はトップまで一気に躍進した。しかも、彼と同じリード・ラップに4台しかいない状態でフルコース・コーションが発生。最後のピットストップをしてもトップを保つこととなった。

残り50周を切ってのリスタート。琢磨の優勝は安泰かと思われた。ところが、クリーンエアを浴びながらのトップを走行したためタイヤの消耗が早く、後方からエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)が猛チャージ。最終ラップはテール・トゥ・ノーズとなり、ゴール時の2台は真横に並んでいた。それでも琢磨はほんの少しだけ先にコントロールラインに到達。0.0399秒の僅差でウィナーとなった。

アクシデントを起こせないプレッシャーを跳ね除け、琢磨は248周のレースをクリーンに戦い抜いた。刻々と変化する路面コンディションを感じ取り、マシンの調整を的確に行なったことで、彼はレースの後半戦に勝てるスピードを獲得していた。ベテランならではのレース運びだった。フルコースコーションの出るタイミングが幸運だったと考えることもできるが、それらを巧みに利用する作戦をチームが採用したことで手繰り寄せられた勝利でもあった。

「多くのメディアが公平に扱ってくれ、ファンからも大きなサポートを受けた。ゲイトウェイの熱心なファンは、レース前の僕を激励する歓声を送ってくれていた。大きく勇気付けられた。レース中も、コースを走る自分をファンはサポートし続けてくれていた。嬉しかった。お礼の言葉が見つからないです」

優勝インタビューでの琢磨は、感激に声を震わせていた。

3位表彰台を獲得したトニー・カナーン(AJフォイト・レーシング)とお互いの健闘を称え合う

“ノーアタック、ノーチャンス”をモットーとする琢磨。そのドライビングスタイルで、彼はアメリカにも本当に多くのファンを作っている。シーズン2勝目の表彰式は夜中になったが、琢磨の喜ぶ姿を見ようと多くのファンが集まり、「よくやった!」、「いいレースだった」などと口々に声をかけた。

琢磨はそれらに手を振って、「ありがとう!」と応え、セレモニーが終わった後にファンが列を作ると、最後の一人にまでサインをしていた。ゲイトウェイで琢磨はまたファンを増やしたのだ。

(text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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