デイトナ24時間とセブリング12時間に見る、NSX GT3 Evoの戦闘力
2019年もアメリカのIMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップは大盛り上がり。中でもグランド・ツーリング・デイトナ・クラス(GTD)はもっとも豊富なマシン・バラエティを誇り、競争も過激なほどに熾烈なものになっている。
開幕戦のデイトナ24時間レースで、GTDクラスのポールポジションを獲得したのはフェラーリ488 GT3で、2位はメルセデス-AMG GT3。そして、予選3位はアキュラNSX GT3 Evoと、3ブランドがトップスリーを分け合った。
ほかにはアウディR8 LMS GT3、BMW、ランボルギーニ・ウラカンGT3、レクサスRC F GT3、ポルシェ911 GT3といったマシンたちが出場している。
NSX GT3は2017年のデイトナ24時間でアメリカのレースシーンにデビューし、3シーズン目となる今年は、アップデートキットを組み込んだEvoモデルに代わっている。インディカー・チームでもあるメイヤー・シャンク・レーシング(MSR)から86号車が出場し、もう1台の57号車は、ハインリヒャー・レーシング・ウィズMSRというエントリー名になっている。
生物学者で農業関連の会社を経営していて、その前にはアメリカ空軍でドクターを務めた経歴の持ち主、ジャッキー・ヘインリッチャーがキャタピラーのスポンサーを持ち込み、MRSとジョイントしたからだ。彼女はチームメイトにキャサリン・レッグ、アナ・ベアトリス、シモーナ・デ・シルベストロという元インディーカー・ドライバーを3人を起用。自らもデイトナを走るつもりだったが、背中を傷めたためにクリスティーナ・ニールセンを代役に起用した。
今年のデイトナ24時間は、大雨によりレッドフラッグが出され、レース後半はストップしている時間が長かった。しかし前半のドライコンディションにおけるバトルは凄まじく、スタートから8時間が経過しても14台がリードラップを走り、ピットストップの度に順位が目まぐるしく入れ替わった。
この大混戦を制したのはオーストリアのチームが走らせたランボルギーニ・ウラカンGT3で、デイトナ2連勝を飾った。2位はアウディR8 LMSで、3位にはレクサスRC F GT3が入った。去年はGTDクラス2位を獲得したNSX GT3だが、今年は86号車がクラス5位に入るのが精一杯だった。女性チームの57号車はクラス13位でチェッカーを受けた。
第2戦はセブリング12時間。デイトナでの24時間に比べれば時間は半分だが、高速でバンピーなコースはマシンにもドライバーにも大きなストレスをかけるものとして有名だ。
GTDクラスの予選では、86号車MSRアキュラNSX GT3 Evoが、トレント・ヒンドマンがアタックを担当しポールポジションを獲得。タイムは1分59秒517で、2位に0.382秒の差をつける力走だった。女性トリオの乗る57号車NSX GT3 Evoは、デイトナに続き搭乗のクリスティーナ・ニールセンが2分00秒89をマーク、クラス6番手につけた。
「セブリングのレーシングスクールで3日間のコースを受けたのが10年ぐらい前。自分がセブリング12時間でオールポジションを獲り、ピットでインタビューを受けるなんて想像すらしなかったよ。NSXはEvoになって、マシンセッティングの幅が広がっている。それでバンピーなコースに合わせたマシンにすることができているよ」
トレント・ヒンドマンはこう語ってくれた。彼は雨となった決勝でもスタートから見事な走りで2番手以下を突き放して見せた。マリオ・ファーンバッカーとジャスティン・マークスのチームメイトふたりも奮闘したが、最後のピットストップ時にマシンがエクイップメントを踏んでしまったため、もう一度ピットしてのペナルティを受け、クラス7位でのゴールとなった。
「レースでもマシンのハンドリングは最高だった。ウェット、ドライ、暑い日中、気温が下がってから……どんなコンディションでももそれは変わらなかった。こういう戦いができるチームの素晴らしさを感じた。最終的に今日は自分たちの日にならなかったけれど、何度もトップに立ち、先頭を非常に良い走りで保つこともできていたので、このまま行けば幸運が巡ってきて、いつか勝てる日が来ると確信している」
キャサリン・レッグ/アナ・ベアトリス/クリスティーナ・ニールセン組はその後ろの8位でゴール。ニールセンがヒンドマン同様に雨中のドライビングで大健闘を見せ、レッグがレース終盤にトップに立ったが、最後のピットストップを終えると5番手に後退しており、ゴール目前のリスタートでの混乱に巻き込まれてコースオフ。勝利を掴むチャンスが一転、クラスのリードラップで最後尾のゴールとなってしまった。
「終盤にトップを走ったことが証明する通り、私たちにはスピードがあり、レースの戦いぶりも良かった。今回はリザルトが自分たちの能力を示すものになっていない」
レース後、キャサリン・レッグはそう悔しがっていた。セブリングではランボルギーニが1-2フィニッシュ。3位以降にフェラーリ488 GT3、アウディR8 LMS GT3、メルセデス-AMG GT3、ポルシェ911 GT3 Rが続いた。今回もクラスのリードラップで8台が最後まで優勝争い。IMSAウェザーテック・スポーツカー・チャンピオンシップでバトルが最もホットなのはGTDクラスだ。
いっぽう、アキュラ、キャディラック、ニッサン、マツダの4メーカーが激突する構図となっているのが、最高峰クラスであるデイトナ・プロトタイプ・インターナショナル(DPi)だ。デイトナ24時間では予選でマツダが1-2を飾ったものの、決勝レースではキャディラックが1-2、アキュラが3位だった。
セブリング12時間のDPiクラスは、予選で6号車アキュラDPiがポールポジションを獲得。2位はマツダで、3位は7号車アキュラDPiだった。しかし決勝レースでは、アキュラは2台とも序盤のトラブルで後退し、スピンやコースオフでさらに差を広げられ、優勝から3位までをキャディラックが独占した。
アキュラは7号車(エリオ・カストロネベス/リッキー・テイラー/アレクサンダー・ロッシ)が粘り強く戦い、最後の最後でリードラップに復活して4位フィニッシュ。もう1台の6号車(デイン・キャメロン/ファン・パブロ・モントーヤ/シモン・パジェノー)は、電気系トラブルの完治までに時間がかかってしまい9位フィニッシュとなった。
デビュー・イヤーだった去年は2台揃ってリタイアだったので、2シーズン目に進歩を遂げていることは間違いなく、スピードも獲得できている。今回はトラブルに足を引っ張っられて結果を残せなかった。
多くのマシンが次々ポジションを入れ替えながらの接戦を展開。これはIMSAのバランス・オブ・パフォーマンス(車重や燃料搭載量などで性能を調整)が3シーズン目を迎え、かなりうまく行っていることの証明ではないだろうか?
GTDクラスの次戦は、ツィスティで少しアップダウンもあるミッドオハイオ・スポーツカーコース(オハイオ州コロンバス郊外)で行われる。DPiクラスは、インディカー・シリーズと併催となるカリフォルニア州ロングビーチでのストリート・レースだ。
(text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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