インディカー最終戦ソノマ、ディクソンが5度目の年間王者に
2018年のインディカー・シリーズは早くも最終戦を迎えた。ここまでシリーズチャンピオン争いに残っているのは4人だが、現実的な見方をすればポイントリーダーのスコット・ディクソンと、ポイント2番手のアレクサンダー・ロッシによる一騎打ち。
それはタイトル獲得4回のベテランと新進気鋭の若手の対決であり、チップ・ガナッシ・レーシングとアンドレッティ・オートスポートという2つの強豪チームのプライドを賭けた戦いでもあった。
戦いの舞台はサンフランシスコ郊外のソノマ・レースウェイ。アップ&ダウンに富むチャレンジングなコースには、シリーズチャンピオン決定バトルを見ようと多くのファンが集まった。空は雲ひとつない真っ青な快晴。暑過ぎない天候。戦いの舞台は整った。
予選でポールポジションを獲得したのはライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)。ロッシの先輩チームメイトだ。ディクソンは惜しくも予選2位となった。
ロッシは3段階で行われる予選のファイナルには進んだものの、その中での最下位で6位に終わった。ソフトコンパウンドのレッドタイヤが明らかに有利だが、速いラップを刻めるのは1周のみ。そこでハードのブラックタイヤを装着し、連続アタックで上回ろうという目論見だったが、それは失敗に終わった。
スターティング・グリッドに着いたマシンの装着タイヤを見回すと、上位陣のほぼ全員が予選で使ったレッド・タイヤだったのに対し、ロッシだけが新品レッドを履いていた。スタート・ダッシュで順位を上げたい気持ちがありあり。29点のリードを持つディクソンの優位が、予選を終えてさらに明らかとなったことで、初王座獲得を目指すロッシは、焦りが大きくなっていた。
決勝レースは、ポールポジションからスタートしたハンター-レイが序盤からリードを保ち、85周のレースのうち80周をトップで走るという完勝を遂げた。真後ろの2位を走り続けたのが、ロッシが優勝しない限りは2位でもチャンピオンが決定するディクソンだったために、ハンター-レイは楽勝だったと見えなくもない。
しかし、この日最速だったハンター-レイはディクソンにアタックのチャンスを与えなかった。一番速いドライバーが優勝するという順当なレースになっていたと評すべきだろう。ハンター-レイの今シーズン2勝目は、自身のキャリア18勝目だった。
「マシンが最高だった。これはチームにとって嬉しい勝利。クルーたちの素晴らしい仕事に報いるものだ。最終戦勝利は信じられないほど嬉しい。この勝利をロバート・ウィッケンズに捧げる。彼は今もレースでの負傷と戦っている。もし彼が今日レースに出場していたら、私を苦しめる存在になっていただろう」
「ディクソンのタイトル獲得、おめでとう! 5回目のタイトル獲得は驚くべき偉業だ」
レース後、ハンター-レイはこのように話した。
いっぽうディクソンには、勝ってシリーズチャンピオンを獲りたいという気持ちも少なからずあっただろう。しかしハンター-レイが優勝するのをすぐ後ろから見られるのなら、それはロッシの逆転タイトルを阻み、自らが王座を勝ち取れるということ。
冷静な走りで相手のミスを待ち、優勝のチャンスがあれば手に入れるという走りを続けた。不必要なリスクは避けてゴールを目指した。その結果が5回目のチャンピオンシップ獲得に繋がった。インディカー・シリーズ最多記録であり、あのAJ・フォイトと並んだのだ。
今シーズンの全17戦で3勝。6位以内でのフィニッシュは14度と驚異的な安定感はディクソンならではとも言えるが、チップガナッシという総合力の高いチームによるところも大きい。彼らのシリーズ・タイトルはこれで12回目となった。
チーム・ペンスキーは15回タイトルを手にしているが、それは50年以上をかけてのもの。チップガナッシは来年が創立30周年という意外に若いチームだ。
ディクソンは、現役のドライバーで最多となるシリーズ通算44勝を挙げており、それはインディカー歴代3位。彼より多く勝っているのはマリオ・アンドレッティ(52勝)とAJ・フォイト(67勝)だけだ。
「言葉もない。タイトル獲得はチームのおかげ。僕はゴールラインを横切るラッキーな仕事を担当しているだけだ。チームオーナーのチップ・ガナッシ、そして彼のチームのためにタイトルを獲得できて嬉しい。彼らには感謝をしてもし切れない。タイトルを競い合ったライバルチームにも感謝する。とても激しい戦いだった。そして、ロッシのシーズン終盤の見事な追い上げも称えたい。彼はきっと、これから多くのタイトルを獲得するだろう」
ディクソンはそう語った。
ハンター-レイ、ディクソンによってホンダは1-2フィニッシュを飾り、今シーズンの11勝目となった。1994年のCARTシリーズ参戦以来7回目となるマニュファクチャラーズタイトル獲得に華を添えた。昨シーズンに続き、ホンダ・チームは全5チームが勝利を記録した点も素晴らしい。ライバルのシボレーは、チーム・ペンスキーしか勝ち星を挙げていない。
ロッシのレースも振り返ろう。タイヤが冷たいうちのマシンコントロールに自信を持つ彼は、スタート後の1〜2周で順位を大幅に上げるつもりだった。それがグリーンフラッグ直後、ターン1での追突に繋がった。彼の想定より早くブレーキングした相手に接触、フロントウィングとタイヤを破損した。とっておきの新品レッドタイヤがこれでダメになった。
それでもアンドレッティ・オートスポートとロッシが簡単に諦めるはずはなく、まずは燃費作戦に挑戦。しかしレース展開も見極め、全開プッシュによる真っ向勝負に切り替えた結果、そこにイエローフラッグも味方して、逆転優勝に向けた希望の光がかすかに差し込んだ。
ロッシは11番手から激しく追い上げ、5番手までにまで浮上。これにはサーキットに集まったファンも大喜び。ロッシは地元カリフォルニアの出身でもあり、応援する声は大きかった。
しかし、その激しい走りでタイヤを傷め、燃料も惜しみなく使ったために終盤はペースダウン。さらなるイエローが出て味方をしてくれる展開ともならず、7位でゴール。自己ベストではあるが、悔しいランキング2位でシーズンの幕を閉じた。
「1周目の接触は、相手が早くブレーキングしたためか、自分のミスジャッジだったのか、まだわかっていない。あのようなことは起こったが、ディクソンを逆転するのはもともと非常に難しかったと思う。それでも僕らのチームは諦めず、かなりのリカバリーが達成できた。最終戦がこんな結果となったのは残念。ランキング2位が悔しいのも事実。しかし僕らは来シーズンに向け、大きなものを掴んだ」
ロッシはレース後にこう語っていた。
佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は予選12位。1周目に3つポジションアップし、さらに1台をパスして9番手で1回目のピットストップを行なった。ピットのタイミングも良く、7番手となった琢磨はさらに上を狙える状況と写っていたが、ピットアウトした周にマシントラブルが発生し、リタイア。チームを移籍した年に1勝を挙げたシーズンはランキング12位という結果になった。
「良いスタートが切れ、コース上で更にポジションを上げることもできた。マシンも作戦もよかった。あそこでトラブルによるリタイアというのは残念な結果だ。懸命に働き続けてくれているクルーたちにとっても、こういう最終戦は非常に残念。今日、僕は来シーズンもこのチームで戦うと発表できた。2019年に向けては。好感触と大きな期待を持っている。冬の間にマシンを更に良くして、強くなって開幕戦を迎える。チームのみんな、応援してくれたファンの皆さん、本当にありがとう。素晴らしい1年でした」
レース終了後、琢磨はこのように話してくれた。
その表情には、今年掴んだ自信と手応えが表れていた。
(text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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