ウィル・パワーが3勝目を挙げてタイトル争いに残る
インディカー・シリーズ第15戦ゲイトウェイ (ミズーリ州セントルイス近郊=イリノイ州だけど)は、土曜のナイト・レース。ただし前日の金曜に朝から大雨が降ったため、予選はキャンセル。代わりに土曜日のファイナルプラクティスが60分間から90分間に伸ばして開催された。そして予選が行われなかったため、決勝のスターティンググリッドは現時点のシリーズポイント順で決定された。
ポコノではファイナルプラクティスで雨が降り、日曜に短いプラクティスをやればやれたのに、やらないことに決定。エントラントやファンからの反発は大きく、今回はプラクティスを行うことになった。予選も見たかったけれど、レースが面白くなる方が断然重要だ。出場者がより速いマシンへと仕上げられるプラクティス開催は、正しい判断だったと思う。
しかし、レースは期待されただけエキサイティングなものになったのか……というと、微妙。3ストップと4ストップ、燃費作戦が二つに別れたところは、まぁそれなりに見どころになってたのかもしれないけど、我々が見せられたオーバーテイクはどれも燃費絡みだった。燃費セーブに必死の人は遅く、燃料に余裕のある人は速いという、当たり前の話だけ。
3ストップで走り切る可能性も睨みつつ……という戦い方をみんながしている場合、レースしてる風に見えても、それって実は淡々と周回をこなしているだけ。ポールポジションからスタートしたポイントリーダーのスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)がトップを保ったのも当然。みんな積極的に前に出ようとは考えていなかったわけだから。
という事情で、ディクソンは最多リードラップを記録。しかし、150周目にウィル・パワー(チーム・ペンスキー)にパスされた。というかトップの座を譲った。ディクソンはライバルたちに比べて燃費セーブが不十分と判断。スピードを抑える作戦に切り替えたからだ。
パワーは燃費とハンドリングを両立し、リードを広げて行った。そして、最後に彼に勝負を挑むことになったのは、ディクソンではなく、ポイントランキング2番手のアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)だった。
パワーより1回少ないピットストップ数(3ストップ)でゴールを目指したロッシは、レース終盤にトップに立った。しかし燃料補給をして燃費の心配がなくなったパワーが全力アタックすると、ロッシを楽々とパス。今のインディカーで一番鋭い走りができるロッシでも、燃費がカッツカツじゃ速く走るのは無理だ。
とうことで、優勝はウィル・パワー。今シーズン3勝目で、シリーズランキングは4番手から3番手に浮上した。今季の優勝回数はジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)とスコット・ディクソン(チップガナッシ)に並び、通算優勝回数も「35回」と伸ばし、ボビー・アンサーと並んで歴代7位となった。
2位のロッシは、ひとつの目標は達成した。それはディクソンより前でゴールするということ。ディクソンはロッシに1.5秒届かず。敗因は作戦を絞り込み切らずにフレキシブルに戦ったこと。ロッシとのポイント差は29点から26点になった。3位フィニッシュできたことでポイントの縮まり具合は最小限に抑えたが……。
ウィル・パワーはモチベーションを取り戻しただろう。それは逆転タイトルだ。「それは可能と思う。今年の5月を迎えた時、ディクソンと僕のポイント差は今とほぼ同じだった。インディカーGP、インディ500で連勝して僕は2点差のトップになっていた。逆転が可能なことはすでに自ら証明しているんだよ」とパワーは語った。
依然としてリードを持つディクソンの優位は変わらない。しかしロッシには若さと勢いがある。ギリギリでチャンピオン争いに生き残ったパワーにだって、小さいけど逆転の目はある。
佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、13番グリッドから燃費作戦で戦った。プラクティス時間が少ないことでマシンの仕上がりには不安アリ……ということで燃費作戦。
1タンクで誰より長く走ってトップに躍り出るなど、いい感じに見えていたものの、ライバルたちがあと2回、自分たちはあと1回のピットでオーケーというタイミングでライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)のエンジンがシャットダウンし、フルコースコーションが発生。優勝のチャンスは消えた。9位でのゴールとなった。
今回、ホンダは優勝できなかったが、今年のマニュファクチャラー・タイトル獲得が2レースを残して決まった。ポコノまでで9勝を挙げ、勝てなかったレースでも上位フィニッシュを重ねた結果だ。また、エンジン・トラブルを出さない信頼性の高さもタイトルに繋がった。
2012年にシリーズへ復帰して以来、シボレーはこのタイトルをずっと獲り続けてきた。しかし、今年はインディ500で勝つためにパワーアップを目指した結果、信頼性が低下。インディ500優勝という目標は達成したもの、年間タイトルは手放すことになった。
2012年から昨年まで、ホンダはインディ500で4勝2敗。マニュファクチャラータイトルは獲っていないが、1番の目標としていたインディ500制覇を高い確率で達成していた。今年はシボレーが勝ったので、2012年以降のインディ500における対戦成績はホンダの4勝、シボレー3勝となっている。
今回のレースを終えてみて、インディアナポリス以外のオーバルレースは2デイ・イベントっていう現状は、やはり僕は変えるべきだと思う。経費節約は結構なこと。けれど予選前、レース前にプラクティスする時間が少なすぎる。オーバルコースは雨が降ったら一切走れないのだから、尚更だ。
そんな場合、テストをしたチームとしてないチームの間に大きな差が生まれる。じゃ、そのテストをできるか否かはどうやって決まるかというと、ルーキーはテストができて、インディライツのチームを持ってるところにも特別にテストデイが与えられるルール。ステップアップカテゴリーの応援も大事だが、メインのシリーズに不公平を作り出してちゃ元も子もない。
もちろん作戦の善し悪しや、燃費走法のうまい・ヘタというのもチームやドライバーの実力だし、レースの魅力ではある。ただ、そういうレースを積極的に見たいと思いますか? 大抵の人は全力バトルが見たいのでは?
『トップカテゴリーのスプリントレースに燃費レースは似合わない』ってのが、ほとんどのファンの考え方ではないだろうか。燃費セーブもテクニックだろうけど、アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)が2015年のインディ500を優勝したのにイマイチ評価されてないのは、燃費レースだったからじゃないかな。
(text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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