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最速の女性ドライバーがNSX GT3の戦闘力を語る

日本国内ではスーパーGTのGT300クラスに参戦しているNSX GT3だが、その車名が示すように車両はFIA GT3規格に基づいた市販レーシングカーである。北米のIMSAシリーズ・GTDクラスには2017年より参戦し、すでに表彰台の常連となっているが、このアキュラNSX GT3を当初からドライブするひとりがキャサリン・レッグである。

イギリス出身であるキャサリン・レッグは、フォーミュラを中心としたレースキャリアを重ね、インディカー・シリーズへの出場経験も持つベテラン女性ドライバー。近年はハコ車カテゴリーを中心に参戦しており、NSX GT3のプロジェクトには発足当初から参画している。

今シーズンも、IMSA GTDクラスに86号車NSX GT3で参戦するキャサリン・レッグに、NSX GT3とはどんなレーシングカーなのか、また今後のアップデートなどを訪ねてみた。

今から2年ほど前に、NSX GT3の開発プロジェクトはスタートしました。そして昨年、2017年2月に行われたデイトナ24時間レースが、アメリカにおけるアキュラNSX GT3のデビュー戦でした。

2017年1月28-29日に行われたロレックス・デイトナ24時間レースでNSX GT3はデビューした

私たちはシーズン開幕前の3ヶ月をかけ、アメリカでの開発を行いました。そして、昨年はシーズンを通してさらに開発を重ねてきましたが、FIAのホモロゲーションを取った後なので、デビューしてからの開発というのは小さなものでしかありません。それでも、とても興味深い経験を積んできています。

2017年1月に行われた北米国際自動車ショー(デトロイト・ショー)にて、NSX GT3のドライバー陣が発表された。もちろんキャサリン・レッグもそのひとり

NSX GT3はイタリアのJASモータースポーツが製作しましたが、プロジェクト自体は日本、ヨーロッパ、アメリカの共同開発です。アメリカではホンダ・パフォーマンス・デベロップメント(HPD)が担当しています。

私たちはヨーロッパで作られたマシンを受け取り、アメリカでの開発を始めました。すでにJASモータースポーツが初期のテストをイタリアで行ったものです。HPDは開発段階から関わっていたと思いますが、私たちのチーム=メイヤー・シャンク・レーシングはイタリアで最初のテストを行なったマシンを入手したんです。

そして、フロリダ州のセブリング・インターナショナル・レースウェイを使ってテストを重ねました。冬の間でも温暖ですし、あのコースはシリーズ第2戦で実際に使われます。そして、セブリングには高速でバンピーという大きな特徴があります。マシンには本当に過酷なコースなんです。最も厳しいコンディションでテストを重ねれば、そのマシンはどこが壊れ易いのか、どこが強いのか、どんな対策が効果を発揮するのかを知ることができます。

NSX GT3は市販を前提としたGT3規格のレーシングカーですから、カスタマーがメインテナンスやセッティングを行ないやすいマシンであることが求められます。ジェントルマン・ドライバーたちが扱いやすいキャラクターとなっていることも重要です。あらゆる面でマシンはカスタマー・フレンドリーでなくてはいけないのです。

その一番代表的なポイントを挙げると、体の大きな人でもコックピットへの出入りができる限り容易なこと。ジェントルマン・ドライバーたちがレースでのドライバー交代を簡単に行えることは重要ですからね。

NSXのGT3マシンは、開発でも大きな問題にぶつかることはありませんでした。エンジンをミッドシップマウントしているマシンは最初からハンドリングも非常に良く、大きな変更というものは必要がなかったんです。元々の素性が良いので、それに磨きをかけた感じです。

市販のNSXは私も何度か公道で走らせたことがありますが、とても素晴らしいクルマですね。自分が経験して来た中でもトップにランクされるハンドリングを備えたクルマだと感じました。様々な部分に対して細かな作り込みがなされ、とても完成度の高いクルマに仕上げられています。それがそのままレース用GT3マシンにも受け継がれているということでしょう。

ミッドオハイオのレースで2位表彰台を獲得したキャサリン・レッグ(右)/アルバロ・パレンテ(左)組

車重や燃料タンクのサイズなどをコントロールするBoPのため、NSX GT3がライバルに対して何か大きなアドバンテージを持っているということはありません。私たちに何か有利なことがあるとしたら、それはメイヤー・シャンク・レーシングというチームの総合力です。マシンの準備、エンジニアリング、レース中のピットストップ、すべてが流れるようにスムーズに行われています。

ヨーロッパや日本のレースに参戦しているNSX GT3から、私たちのチームに対するフィードバックは行われていません。しかし日本とヨーロッパのホンダ、そしてHPDの3者の間では情報交換が行われているはずです。それらが私個人や私たちのチームまで降りてきてはいませんが、今後のマシン開発には役立てられて行くことと期待しています。

来シーズンは、同じクルマですがエボルーションと呼ばれるモデルで走ることになります。空力をはじめ、幾つかの部分を新しくすることがIMSAのルールで許されているのです。その開発はすでに始まっており、それらのパーツのテストを行っています。

レース毎とは限らないのですが、BoPで様々な数字が変更になるため、実際にレースを走ってみないと、どれだけの有利、どれだけの不利がどの部分に生じるかがわからない。それがIMSA GTDのレースです。どれだけのウェイトで戦わなければいけないのか。フューエル・リストリクターのサイズはどれぐらいに設定されるのかによって、走りには必ず影響が出ます。

今年のデイトナ24時間で#86 Michael Shank Racing Acura NSXを走らせたキャサリン・レッグ/アルバロ・パレンテ/トレント・ハインドマン/A.J.アルメディンガー組

そうした中で私たちは奮闘を続けてきて、7月20日の時点でポイントスタンディングで2番手につけています。今シーズンの目標はシリーズ全体と、耐久レースだけを集めた北米チャンピオンシップ、その両方でタイトルを獲得することです。トップを行くランボルギーニとの差は小さいので、ぜひとも目標を達成したいと思います。

(interview&text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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