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第102回インディ500はウィル・パワーが制す

昨年2017年の第101回インディ500では佐藤琢磨選手が優勝。今年の第102回はマシンの空力が新しくされ、まるで異なる戦いになった。前のマシンに近づき難く、オーバーテイクが少ないレースになったのだ。こういう時にはとにかくトップグループを走り続けることが肝要。しかも決勝日は朝から暑く、日中の最高気温は史上最高レベルの34度に達したものだから、パスはますます難しくなっていた。

ポールポジションからスタートした#20 エド・カーペンターがレースを引っ張る。後方には#22シモン・パジェノー、#12 ウィル・パワーが続く。右奥に見える緑のマシンが#13 ダニカ・パトリック

プラクティスから優位にあったシボレー勢から、ポールポジション・スタートだったエド・カーペンター(エド・カーペンター・レーシング)と予選3位だったウィル・パワー(チーム・ペンスキー)がトップ争いの中心になった。

昨年のインディ500ウィナーとしてレースに臨んだ佐藤琢磨選手。ドライバー紹介では大きな声援を受けた

琢磨は去年の優勝チーム=アンドレッティ・オートスポートを離れ、今年はレイホール・レターマン・ラニガン・レーシング(RLL)で戦っている。色々あっての移籍だったが、インディ500連覇、そしてシリーズチャンピオンになる夢を実現するためというのが一番の目的だった。しかし、RLLは新空力の解析で後手に回っており、今回のインディ500でも苦戦。琢磨は去年予選4位だったか、今年は16位。序盤のハンドリングは望み通りではなく、ほぼスタート位置と同じポジションを保つ我慢の展開になっていた。

レース序盤では中団グループを形成し、徐々に順位を上げていこうとする矢先にアクシデントが

それでも1回目のピットストップでセッティング変更、徐々にでも順位を上げて行こう……としていたところでハンドリング不調から異常なほど遅く走っていたクルマがあり、コーナーの中で追いついた琢磨が追突してしまった。まだ48周目で挽回のチャンスは十分にあるというのに、あの遅さでコース上に残り続けた彼らの判断はあまりに愚かで、自らだけでなく前年度ウィナーのレースをも台無しにした。

レースはこの後、アクシデントが続出する。予選でホンダ最速だったセバスチャン・ブルデイ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・バッサー・サリバン)が単独スピンでレースを終えたのに驚いていたら、インディ500で3勝をあげているエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)、2013年優勝のトニー・カナーン(AJ・フォイト・レーシング)もコーナーの真ん中から出口でマシンのハンドリングが急激に変化し、それをコントロールし切れずクラッシュした。

「ダニカ・ダブル」と名付けられた引退レースをクラッシュで終え、インタビューに応えるダニカ・パトリック

女性ドライバーのダニカ・パトリックも予選では9位と素晴らしい結果を残したものの、レースではドライビングの難しいマシンで順位を下げ、最後はクラッシュ。現役最後のレースはフィニッシュできなかった。

パワーとカーペンターの優勝争いが続き、レース終盤にはピットタイミングをずらしてアドバンテージを得ようとする者、燃費セーブでチャンスを掴もうとする者が次々現れた。2008年ウィナーのスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)は残り40周でイエロー中のピットイン。燃費セーブで大逆転勝利を目指した。それが無理と判明するやフィニッシュに目標を切り替え、見事に3位でゴールした。

ホンダ勢最上位となったのは、チップガナッシの#9 スコット・ディクソンだった

勝ったのはパワーだった。カーペンターはレース序盤のハンドリングの良さを最後まで保ち続けることができなかった。アンダーステアが徐々に大きくなり、ピットでの調整がそれに追いつかなかった。

そんなパワーに最後の心配をさせたのは、燃費でギャンブルに出た2人の若手だった。アンドレッティ・オートスポートから出場したステファン・ウィルソンと、シュミット・ピーターソン・モータースポーツからエントリーしたルーキーのジャック・ハービーだ。ホンダ・エンジンの燃費の良さを武器にした戦いだったが、彼らはあと4周で燃料が尽き、ピットロードに向かった。

パワーにとっては劇的な光景だった。若手2人が彼の前でゴールに向かって逃げていた。もう残りは5周を切ろうとしており、2台が同じスピードを保ち続けたら抜けるかは疑わしかった。彼らの前に出る前に誰かがアクシデントを起こしたら、イエローが出てゴールまでその状態が続くだろう。パワーに再度逆転のチャンスは与えられない……などと考えていたその視界から、2台が給油のためにピットロードに向かったのだ。

ゴール後にマシンを降り、喜びを爆発させたウィル・パワー

「信じられない!」マシンを降りたパワーは何度も口にした。

「多くのレースで勝ってきた。ポールポジションもたくさん獲った。しかし、このインディ500となると、本当に自分に勝てるのか? と自信が持てなかった」とパワー。インディカー歴代9位の33勝を挙げ、歴代3位の51回のPPを獲得してきながら、不運に見舞われてレースを落とすことも多かった彼は、”自分はインディ500では勝てない運命なのか”と考え続けていた。

2015年には、チームメイトのファン・パブロ・モントーヤとのバトルに敗れて2位だった。
「僕の能力を信頼して使い続けてくれたオーナーのロジャー・ペンスキーに感謝する。僕をインディのビクトリーレーンに到達させてくれたのは彼と、スポンサー、そして両親だ」。

2位に敗れたカーペンターは、「最後はスピードが伸びなかった。ハンドリングが悪くなっていた。チームとして良い戦いはできていた」と語った。悔しさと、全力を出し切った充実感の両方を彼は感じているようだった。

ウィナーとなったパワーと共に、今年のインディ500で観衆を大いに沸かせたのがアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)だ。2年前にルーキーながら奇跡的燃費走法で優勝した彼は、今年は奇跡的なカー・コントロール能力を駆使したオーバーテイク・テクニックでインディ2勝目を飾る勢いだった。

アレクサンダー・ロッシはレースが進むたびにマシンセッティングを向上させ、イエロー後のリスタートでは何度もビッグ・オーバーテイクを見せた

予選はマシンセッティングで大失敗して最後列の32番グリッドとなったが、ロッシは誰もがオーバーテイクができずに苦しむなか、折り返し点の100周目を迎える前にトップ10まで大幅ポジションアップ。終盤のリスタートで5台をパスしてトップ5入りして大歓声を浴びたが、アグレッシブな走りでタイヤが音を上げたか優勝争いにまでは届かず。

しかし4位でゴールし、「やれることはやった。マシンの力は出し尽くした。チームも持てる力を発揮した。それでも勝つには不十分だった。おめでとう、ウィル・パワー」とライバルの勝利を讃えた。

(text:Hiko AMANO 天野雅彦)
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